ジョーカーの多福御膳のネタバレレビュー・内容・結末

汚い街と汚い人間の心、乱れた社会を作品としてこんなにも美しく映すことができてしまうのかと驚き、圧倒されました。あっという間の2時間。
アーサーはアーサーである時から銃を手に踊り撃つ(そこでやっと正気に戻る)ような人だったからもともと狂気の持ち主であったようにも思えたけど、私にはアーサーが変わってしまったというより、環境の悪化にあわせて徐々にジョーカーが乗っ取っていった姿であるように見えていました。福祉サービスの停止や後に知ることになる生い立ちは間違いなく原因の一つなんだけど、アーサー自身が悪に染まったようには見えなかった…(そう思いたくなかっただけかもしれません。)
ただそのジョーカーに乗っ取られたような、知らず知らずのうちにアーサーが殺されてしまったような感覚が怖いところでもありました。
アーサーとジョーカーの境目がはっきりとは分からなかった、でも確実に少しずつアーサーではなくなっていく様子を見事に演じていたホアキン・フェニックスの演技力…凄まじかった。
そしてジョーカーになった姿は悔しいほどに魅力的で、惹きつけるものがあって、それがまた恐ろしくて、彼のカリスマ性を目の当たりにした気がします。
ストーリーの構成自体も、振り返ってどんなに考えてみてもどこまでが現実でどこまでが妄想なのかはっきりとは分からなくてキングオブコメディを彷彿とさせたし、面白かったです。

私はこの作品に対してあまり悪いイメージは持たなかったし映画としてすごく好きだったのですが、私自身まだ社会のことをよく分かっていない自覚があるし、ドン底というドン底は経験していないからこの作品をエンターテイメントの一つとして捉えることが出来ているのかもしれないとは思います。手放しに面白い、素晴らしいと褒め称えていいのかと言われると、そうとは言い切れないな、と思うのも正直なところです。