メンターム

ジョーカーのメンタームのレビュー・感想・評価

ジョーカー(2019年製作の映画)
4.4
鑑賞1日前に「バットマンビギンズ」、当日朝から「ダークナイト」を観始めるも途中までしか観れなかったようなDCニワカだが、予告編の美しさ、口コミの多様さに惹かれて観てきた。みんな「ホアキン・フェニックス」って口に出して言いたいだけじゃないの?なんて思っていたが、観終わった頃には「ホアキンさん」と呼んでました。
@上映4時間前に殺人未遂事件の起きた池袋(通称:ゴッサムシティ)

そんなDCニワカにこの映画を楽しめるんだろうかと不安だったが、杞憂だった。友達とワーイって観に行った人の方がビビっちゃうのでは?制作側が終始一貫してアーサー側の視点に立っていることが、この映画の恐ろしさであり最大の面白さだろう。

善があり、悪がある。映画は監督のメッセージがあり、それを観客は完全に第三者の俯瞰の立場で観ている。これが私の常識だったが、観ている人間は絶対にどこかの立場に置かれて物語も観ているということを感じた。

バットマンシリーズを観ていた時は、ウェイン一家が完全なる善だと思っていたが、どうもそうでもないらしい。いや、全ては彼の妄想なのかもしれないが、そういった事実の正誤を超えて一般化させる力が、この映画にはあった。善悪はいつの時代も変わらないと思っているが、少し見方を変えるだけでその判断は一変する。ジョーカーは悪だとわかっているはずなのに感情移入し、映画は人の考え方をまるっきり変えてしまう力があるんだと思い知る。映画に限らず、思想は作為的に変えられてしまう。そうしてナチスが…という話に行ってしまいがちだが、現代の日本の私たちも既に何かに操作されているのかもしれない。というかされているだろう。

言いたいことはすべてジョーカーが言ってくれた…。
激しいエログロもないのにR15指定、ショックを受けた人たちのレビューなどで、どんだけズタズタにされるんだろうと覚悟していたが、まず一つ言いたいのは、美しかったということだ。どのシーンも美しい。美しさで言えばバットマンシリーズで最高なんじゃないだろうか。クビにされてゴミ箱蹴ってるシーンですら美しかった。多分、あの歪んだ身体に美しさを感じるんだろう。全編コンテンポラリーダンスを見せられてると言っても過言ではない。まず社会問題云々の前に、エンタメとして最高だった。

「お前ら、エリートが殺されたら悲しむくせに、俺が死んでも道端に転がすだけだろ!」
この一言で京都のあれを思い出してしまった。人が死んで悲しむ人は、自分が良心を持っているから人の死を悲しむことができると思っているが、実際は悲しむ対象を選んでいるという残酷な事実。人が実際に死ぬか死なないかはあまり関係ない。24時間テレビで障がいを持つ子供が「何かを成し遂げた」ら「感動」とか言って涙する人々…。実力主義の現代において隠された声がジョーカーのこの言葉に尽きる。

「失うものが何もない男を怒らせたらどうなるのか思い知らせてやる」
誰しもベースは何もないところに、それぞれが付加価値をつけていくのが人生?自分で付加価値をつけているかと思いきや、生まれつきの環境や、アーサーのように他人によってマイナスからスタートされることもありけり。劇場でのチャップリン上映シーンはひどいものだったなあ これを自分がどういう気持ちで書いていいのかすらわからん

例によってラストがどうなるんだろうと思いながら観てたわけだけど、普通勧善懲悪とか、主人公の最大の目的を達成してエンドロールに行きたいところが、ジョーカーの場合はその最終目的が例えば人殺しだとしても(違うけど)、それでエンドにするにはさすがにこちらが納得いかなくなってしまう。ジョーカーがジョーカー性を完成させるところで終わるっていうのが一番いいのかなと思ってたら、最後そういう感じだった