原爆完成に至るまでの過程と戦後の苦悩を描く…と言われましても、あの凄惨な原爆をこの世に生み出した事実に比べれば…と思わないこともないが、それでは1人の重要人物の歴史が消えてしまう。トルーマン政権におけるオッペンハイマーは、ナチスにおけるアイヒマンと同様、人類の未来のために考証されるべき人物なのだろう。
3時間という上映時間は長いと感じるものの、オッペンハイマーの浮かばれない研究時代、マンハッタン計画の立ち上げから参画、メンバーとの折衝、プライベートのあれこれ、打ち上げ実験までの緊張感をオッペンハイマーと共に体感することで、実験が成功した時の達成感や、いざ実際に投下されるとなった時の混沌の感情は、こちらまで迫ってくるものがある。
「人類の未来のために」と書いたが、今現在も当時とまったく同じように、世界平和を命題とした無差別大量殺人がアメリカによって行われている。アメリカとは今も昔もそういう国なのだと思う。その影には、正義の名の下に、身を賭して任務を遂行する存在がいるのだろう。そして、また数十年後にその人物の伝記映画が作られているのだろう。
