Lovina

ジョーカーのLovinaのネタバレレビュー・内容・結末

ジョーカー(2019年製作の映画)
4.8

このレビューはネタバレを含みます

ずっとスクリーンから目を離せなかった。
しかし障害者、元い社会的弱者である主人公・アーサーが虐げられるシーンは、直視を躊躇う程胸が潰れる。
殺人者の動機に道理などあってはならないが、彼が同僚から手渡された銃が自己の解放にも繋がった点は、何ら不思議ではなかった。
社会の暗部が、闇が、どんどん彼に養分を与える。
コメディアンを目指す彼の自己顕示欲、世界の不条理へ対する強い憤りに、止め処ない養分が注がれていく。

アーサーが白塗りの顔に返り血を浴びながら、唯一心の友と呼べた男に
「優しかったのは 君だけだ」
とドアを開けてやるシーンは、声を押し殺して泣いた。
そしてこの時、自分の嗚咽と共に、善悪の概念までも一時的に死んだ気がした。

しかしここからが、本来の見所である。
映画として、急激に格好良くもなるのだ。
人間ドラマがダウナーに続いた果てにアメリカン・コミックスファン達の手も残さず引っ掴み、一挙にラストシーンへと巻き込む。

アーサーの悲哀が暴発したシーンは記憶の限り、人が人を殺めるシーンの中で最も哀しかった。
彼の味方は出来ないが、例えばあの場に居合わせた人間から恐怖の感情を根刮ぎ抜き取ったとしても、一人として彼を止める権利など持たなかったのではないだろうか。

富裕層の象徴である男を殺害した彼に、ピエロの面を被った若者達のデモは一層ヒートアップする。
そこで祭り上げられた彼が己の血でJOKERのメイクを完成形へ持ち込むシーンは、鳥肌が立つ程だった。

ラストシーンに、疑問が残らなかった訳ではない。
精神的な打撃を受けなかった訳ではない。
しかし、もう一度観たい。
そして私が監督の演出に一つ助言が出来るならば、
「エンドロールは長めに、そうでなければ"心の整理が付いた方からお立ちください"とスクリーンに出して欲しい」
と言うだろう。
いや、助言ではなく、一鑑賞者からの懇願である。
Lovina

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