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麻雀放浪記2020のKUBOのレビュー・感想・評価

麻雀放浪記2020(2019年製作の映画)
3.0
この映画、「麻雀放浪記」の名を冠していていいのだろうか? 白石和彌が園子温になったみたいだ。どこからどこまで素人臭い。その上、それほどの熱量も感じない。最初に「それを言っちゃあお終いよ」的なことを言えば、斎藤工じゃあ現代的なイケメン過ぎて戦後の日本の男子にはとても見えないし、その熱演も逆に空回りしてリアルを感じられない。これが柳楽優弥や村上虹郎あたりをキャスティングしていたら全然違ったものになったろうな。

これ見る前にオリジナルを見ておいたのが、良かったのか、悪かったのか? 一夜にして丸裸になっても博打をやめられない不器用な男たちの悲哀や、そんなどうしようもない男に惚れる女との哀しい恋といったオリジナルの良さが、この映画には全くない。

もちろん主役の「テツ」はオリジナルで真田広之が演じていたキャラ。それがタイムスリップして2020年に現れると斎藤工になっているという訳だから、オリジナルへのオマージュというか、まんまのシーンが再現されていて旧作のファンはそれなりには楽しめる。

ドサ健(鹿賀丈史→的場浩司)、出目徳(高品格→小松政夫)、オックスクラブのママ(加賀まりこ→ベッキー)、と懐かしいキャラが登場するし、オリジナルと同じ対局、同じシーンも登場してクスッとさせられる。

ただ、そのオマージュを含めても、映画の本質が全く違う。白石和彌は「麻雀放浪記」が好きなのかな? そこまで疑うほど、オリジナルをただのゆる〜いエンタメにしてしまったことが理解できない。

映画冒頭、「自衛隊の国防軍化、反対!」とか、2020年は某国との戦後で「米軍基地のあるところ(横須賀? 沖縄?)から攻撃されて、日本はあっという間にまた敗戦国」とか、集会の自由がなくなり官憲にいきなり警棒で叩かれるなど、フィクションの皮を被ったストレートな政権批判には白石和彌の思いが伝わった。だからこそ右傾化が進めば、また日本も焼野原でバラック暮らしになっているわけだが、それも設定止まりでその後のお話しにはあまり関係ない。

ラスボスがA.I.になるのは時代の趨勢として理解できるとしても、この映画のテーマとも言うべきテツの思いを、全て台詞にして言わせてしまう演出はいただけない。そこを言わずに言外の演技で見せてくれるのが映画じゃないのか!

これ見て「なーんだ、つまらない」とか思った人、オリジナルの「麻雀放浪記」をぜひ見てくれ! 天と地ほど違うから。

*話題になっちゃってたピエール瀧の件。本編上映前に「麻薬取締法違反で逮捕された云々」というテロップは入ったが、彼の出演シーンはほとんど他のキャストとの絡みもない数ショット。いくらでも撮り直しは出来そうだったのにそのままで公開したのは、白石和彌のこの問題に対する思いからなんだろうな。
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