SANKOU

靴ひものSANKOUのネタバレレビュー・内容・結末

靴ひも(2018年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

人間は社会的な生き物であるから、集団生活にうまく適応するために時には自分を抑えなければいけない時もある。
だから自分の気持ちにあまりにもストレートな発達障害を持ったガディの姿に、最初は父親のルーベンだけでなく観客も戸惑う場面が多い。
しかし社会に溶け込むために本音と建前を使い分けて生きていかなければならない人たちにとって、時にガディの存在は救いとなる。
ルーベンも最初はガディを引き取ることを迷惑がっていたが、決して心に嘘をつかないガディの姿に次第に彼の心は動かされていく。
確かにガディには障害があり、自分一人の力で生きていくことは出来ないし、色々と頭を使って考えても答えを出せないことも多い。しかし彼以外の人間が優れているかといえば必ずしもそうではない。
この作品で人として成長を強いられるのはガディではなく、むしろ父親のルーベンだ。
彼は自分の子供に障害があることを受け入れられずに、妻と離婚して家庭から逃げ出してしまった。
母親が亡くなり、ガディの新しい施設が見つかるまでの一時的な面倒を見ることにさえ、彼はためらってしまう。
そしてガディが自分にとってかけがえのない存在であることが分かってからは、何としても彼を施設に入れさせまいとする。
医者に腎不全の診断をされても生活態度を一切改めようとしない。
自分の身に何かあれば困るのはガディであることが分かっているのに、彼は先のことを真剣に考えようとしない。
何でも自分の中に一人で抱え込もうとするのは、人と深く関わることへの恐怖の裏返しでもある。
純粋に父親の体を気遣ってガディは自分の腎臓を捧げようとするが、ルーベンは拒み続ける。
それもガディからこれ以上奪うことは出来ないという彼にとっての問題であり、ガディにとって何が大事であるかを真剣に考えた結果からではない。
最終的に全てを変えるのはガディの嘘偽りのないストレートな心だ。
ガディの置かれた状況はとても悲劇的なものだが、それでも悲愴感は感じさせない。
ガディは決して明るいだけの人間ではない。自分が他の人とは違うということを本人が良く分かっているし、自殺について考えてしまうシーンもある。
それでも何故か彼には暗い未来は似合わないと感じさせる何かがある。
美人好きなガディは、すぐに美人を見ると恋人はいるかと聞いてしまう。
相手がいると答えれば、その恋人は見る目があるねと返す。
相手にも嫌な想いはさせない素晴らしい切り返しで、実践で使えないかと本気で考えてしまった。
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