ボブおじさん

第三夫人と髪飾りのボブおじさんのレビュー・感想・評価

第三夫人と髪飾り(2018年製作の映画)
4.0
19世紀、北ベトナムの絹の里。14歳のメイはこの地を治める大地主のもとに三番目の妻として嫁いでくる。一族の大邸宅で第一夫人・第二夫人との生活が始まる…

父権社会の時代を生きる女たちの愛と哀しみを、ベトナム秘境の移りゆく季節と絶景を背景に官能的に描く。

ベトナムを舞台としたアメリカ映画は、数多く見てきたが、純粋なベトナム配給映画を見たのは、おそらくこれが初めてだったと思う。

この映画は、ベトナムで生まれアメリカの大学で学んだ女性監督の家族の歴史をベースにしているが、決してパーソナルな話ではなく、世界に通じる普遍的な問題を抱えている。

性別・階級・人種・貧富による格差、1人の少女の愛と成長・結婚と出産そして保守的な家父長制の中で押し殺される個人。

自分の望みと属する社会の間で起こる葛藤というテーマは、いつの世にも通じる話だ。

「第三夫人」という言葉が示す、一夫多妻制の話に馴染めない人も多いと思う。更に主人公の14歳という年齢や男児出産を望まれる女性の扱いに拒否反応を示すことも理解は出来る。

だが、それだけでこの映画を敬遠するのは、余りにももったいない。
時代や国が違っても、教育と機会不足によって自分自身が本当に望む場所に立てない女性は、未だに多い。

3人の夫人の間には、女同士のドロドロとした嫉妬や復讐心は描かれない。ただ静かに見守りながらお互いの立ち位置を逸脱しない姿が、美しい風景と共に映し出される。

ラストは男尊女卑の世界に対する若い女性の対照的な行動が描き出されて余韻を残す。

ショッキングな題材にある普遍性は今も起きている。
決して遠い国の昔の話ではない。

 
2020年2月に劇場にて鑑賞した映画を動画配信にて再視聴。