いけ

運び屋のいけのネタバレレビュー・内容・結末

運び屋(2018年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

面白かった。高齢の男性の人生に対する哀切が丁寧に描かれていて、とても心に響いた。仕事一筋で生きてきたのに、世情はそれに報いることなく、家の抵当は失い、家族からの信頼も底を突く。生きるためには働かなくてはいけないし、働いていると出世、大成を望むのはごく当たり前のことだと思うのに。仕事を失った90歳の彼は、麻薬の運び屋の仕事をすることになる。最初は不穏な雰囲気を感じ取り、「1度きりのつもりだった」と言うが、手に取った大金と、そのお金を必要とする孫や友人、自分の居場所のために、運び屋を続けることになる。お金は結局あってもあっても必要で、天井なんてないのだ。危険と分かりつつも、今まで通り車を走らせる日々。「ダメだ」と分かりつつも抜け出せない葛藤。たまたま出会った捜査官に、「家族が一番だ」と話し、そのことを思い出した彼は「命令に従わなければ死ぬ」と分かっていても死期の近づいた妻に会いに行く。妻の最期の時を共に過ごし、言われる。「そばにいるのに、お金なんていらないのよ」「あなたがそばにいてくれて、嬉しい」
大切な家族を養うために、仕事に身をやつした男性を糾弾できない。けれど家族の求めるものは、その男性が想像するような「いい暮らし」ばかりではなかったのかもしれない。愛とは、生活とは、難しい。
90歳で、家をおわれて仕事を探すことになる世の中が、全ての原因かもしれない。けれど皆それを分かっているからリスクマネジメントをしていて、みんなが乗る列車から転げ落ちた人を拾うために、わざわざ止まって待ってはくれない。人生は無常である。
自分の言った言葉、自分の向けた心のおかげで、最終的には死なずにすんだ。家族からの信頼も得ることが出来た。こうなってしまったことは誰のせいとも言い難くも良いことでは無い。けれど、ハッピーエンドであると思える。
良い映画だった。
いけ

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