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運び屋のJIZEのレビュー・感想・評価

運び屋(2018年製作の映画)
3.8
メキシコ麻薬組織で運び屋稼業として約13億相当の巨額を稼いだ90歳の孤独な園芸家"アール・ストーン"の実話を元に描いた犯罪ヒューマン映画‼︎まずアールの着想は実際に87歳の高齢で逮捕された男レオ・シャープが本作の元となっている。巨匠クリント・イーストウッドが監督兼主演を務めているからか車を走らせながら名曲を口ずさみつつも一つ一つの重い台詞にいちいち説得力があり悪行抑止の強烈なメッセージ性も込められていた。またイーストウッドの監督作で近作では傑作映画『ハドソン川の奇跡(2016年)』や素人の当事者に同役を務めさせた『15時17分、パリ行き(2018年)』などが目新しいが本作でもやはり"判断を迫られた男の決断"や"窮地を突破する力強さ"が無類の哀感と共に人生の生き様を漂わせる有志が謳い上げられている。物語はシンプルで"仕事一筋で家庭をないがしろにした男が実業の失敗で家財を失い犯罪業に手を染めてしまう話"なのだがあくまで映画の主観はアール自身の疎遠的な家庭と愉快な人柄を掘り下げてるため麻薬組織の病理や麻薬取締局の警察側が本質的に絡むような複雑な構成はほとんど取られてない。端的に本作はアールが麻薬物資を始発点から目的地へ運ぶ無軌道なループで成り立ってる代物なのだが道中で寄り道するくだりや人助けに助言する一幕など人生の長い道のりを揶揄させたようである。"熟練の為せる技"がイーストウッド節炸裂でスローな台詞回しから女遊びもするし老人青春ムービーとして成立していた気がしました。中盤の麻薬ボス宅で美女二人と有頂天なアールがベッドインする描写は控えめに爆笑した。

→総評(遅咲の老人が家族との関係修復に捧げる)。
総じて人生を知り尽くした往年の爺さんものとしては刺さる重い台詞や命懸けで仕事を遂行する一線を越えてしまった渋い姿勢などアールの家族を顧みず好き勝手にして欲に目がくらんだ言動を全肯定できるわけではないがグッとくる映画だったように感じる。ある場面で"ギルティ!"と発狂するシーンは最後まで潔い。またブラッドリー・クーパー演じる麻薬取締局の警官が中盤辺りから運び屋パートへ絡み出すが顔見知り程度の距離感からアールとの面識をさり気なく顔合わせさせ終盤になだれ込む物語の取り方はやだ味を残していて良かったように感じる。特に中盤のモーテルでアールが部屋の窓ごしにクーパー演じるコリンの姿を見て身の危険を感じずにはいられない感じなどは距離感の詰めかたが絶妙でヒリヒリするがうまい。のちのカフェ店内で二人が出くわすくだりも緊迫感が凄かった。本編の不満は警察サイドが麻薬組織の根源そのものには制裁を下す描写がなく本質的にはそこじゃなかったんだろうが絵的にカタルシスを交えて対峙を見たかった。また組織側の人間がアールを樹海のような森深くに呼び出し忠告するシーンや足止めして説教する場面も振り返れば描写としてあまり意味がなく微妙でした。役者としてイーストウッド自身の凄さはものすごく痛感するがそれ以上を上回る脚本ではなかったのではないか。アールの結末含めてもっと振り切ったエンディングを望んでいたため俺はこの評価に帰結しました。もちろんロードムービー特有の世界が広がる絵変わりやアールを追い詰める執拗な警察側の視点など全体的にデジタル要素を封印してだいぶ古風だがどの年代にもある程度刺さる長い目で年齢は無関係で生き方を再考させられるような映画でした。
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