カフカさん

運び屋のカフカさんのレビュー・感想・評価

運び屋(2018年製作の映画)
4.5
「理解できなかった。あれほどの時間とお金を花に費やすなんて」
「好きなんだよ。デイリリーは独特だ。1日だけ花開いて終わってしまう。時間と努力が必要だ」
「家族だってそうよ」
(主人公のアールとその妻メアリーの会話。最初と最後の台詞はメアリー)

「時間がすべてなんだ。何でも買えるのに時間だけは買えなかった」(アール)


【あらすじ】
園芸家のアール・ストーン(クリント・イーストウッド)は仕事一筋に生きてきた。しかし、事業に失敗し、廃業することになり経済的に困窮する。
しかも、長年仕事に没頭していたため、家族との関係はすっかり冷えきっていた。家族との関係を取り戻したいアールであったが、家族の反応は冷たかった。妻のメアリーからは過去の振る舞いを指摘される。またアールは一人娘と長年口をきいていなかった。

ある日、アールは孫娘の結婚パーティーに参加するが、参加していたある人物から車で荷物を運ぶだけの仕事を持ち掛けられる。アールは言われた通りに積み荷をトラックに乗せて、指定された場所に向かう。荷物の中身は調べてはならないということであった。彼はこの仕事により多額の報酬を貰う。
ある時、アールは荷物の中身を見ると、それは麻薬であった。

他方、麻薬取締局(DEA)のコリン・ベイツ捜査官(ブラッドリー・クーパー)は麻薬組織及び運び屋の摘発に躍起になっていた。


【感想】
結構見やすくて分かりやすい映画だった。台詞にも重みがあるものが多く、考えさせられた(とりわけアールとメアリー、アールとベイツの会話)。

主人公が麻薬の運び屋であるため、もっとシリアスな映画かと思ったが、アールという人間の後悔や変化、家族愛を描いている映画だと感じた。
確かに、アールが麻薬組織でのゴタゴタに巻き込まれたり、彼を信用しない人たちに責められたりと緊張感のある場面もある。しかし、全体的にヒューマンドラマだと思った。

アールは90歳であるが、結構アクティブな老人で仕事に真剣に取り組む。この辺は高齢化社会日本でもすごく現実味があるようにも感じた。ちなみに、主人公のモデルになった人物がいるらしい。

アールは麻薬組織のメンバーを恐れずに彼らに冗談を言いながら話すなど、かなり度胸がある。
また仕事関係の人たちや親しい友人に対して人当たりがいい人物でもある。逆に家族との関係は冷めきっていて、娘とは長年口をきいていない。
アールのように、仕事や外部との人付き合いを優先したり親友の頼みは断らないけど、家族との関係を疎かにしている人は実際にいる。だから理解し、共感しやすい映画でもあった。

歳を取ってから見ると、もっと染みる映画になるのかもしれない。物語の中でも、そしてエンディングの曲でも老人や老いについて触れられている。限られた時間の中でどう生きるか。
引用した台詞で述べられてる「時間は有限」だという言葉は、年齢に関係なくどの世代も感じるべきだろう。ただ歳を取ってからこそ共感できるものもあるようにも思った。
また後悔をしないように生きなければならないとも思った。

原題の“mule”は、「運び屋」や「ラバ」の他に「頑固者」、「偏屈」などの意味がある。 アールは確かに「運び屋」でもあるけれども、「頑固者」でもある(昔はもっとそうだったのかもしれない)。

また、主人公の好きなデイリリーの花言葉は、宣言、とりとめのない恋、苦しみからの解放、微笑、愛の忘却、憂鬱が去る、などらしい。映画の内容に当てはまるものもあったように思う。

結構じわじわと身に染みてくる映画だった。
カフカさん

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