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ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密のmoridonのレビュー・感想・評価

4.7
古典的なフーダニット映画にライアン・ジョンソンが現代的な洒落と風刺でアレンジを加えた一作。好みどストライク。最高でした。

めちゃくちゃ笑えるのにちゃんと正統派のミステリーやってるのがすごい。シリアスなところはしっかりシリアスで、でもやっぱり急にふざけ出して、っていうバランスが絶妙。クリエヴァのEAT SHIT.EAT SHIT.EAT SHIT. は声出して笑った。セリフ回しが本当に面白くて、これ字幕じゃ全然面白さ伝わってない。

嘘ついたら吐いちゃうって、なんだそれ笑
容疑者の発言が嘘かどうかすぐわかっちゃうなんてミステリーとして絶対やっちゃダメなはずなのに、まさかのこの要素がめちゃくちゃいいスパイスになってる。ミステリーなのに台詞ではなく画や音で語るという面白さ。

以下ネタバレあり。

こういうミステリーを観るとき、私は犯人を当ててやるぞという思いで観るんです。でもこの映画、物語中盤でいったんタネが明かされちゃうんですよね。そこで安心しちゃうんです。そしてそこからのラストの展開。これは騙されるわ。だってもう”犯人は誰か”という部分に我々のフォーカスは当たってないんだもの。伏線回収のテンポが遅くてちょっと退屈でしたが、ナイフの刃がひっこむくだりが面白すぎたので全部許せた。

移民問題について家族が抗議しているのも印象的。しかしそこにいる誰一人としてマルタの出自を覚えていないという。結局は上流貴族の彼ら全員、移民である彼女のことを心のどこかで下に見ていたのである。つまりこの物語は“下”である彼女から”上”にいる家族への下克上劇という見方も出来て、マルタが“My House”と書かれたマグカップを手に取って上から家族を見下ろすあのラストカットはもう最高でしかなかった。

久々に心躍るミステリーでした。スターウォーズファンからいくら嫌われようとも、ライアン・ジョンソンの作品を愛していくことを誓いました。
フーダニットという枠組みと遊んでメタ的なひねりを効かせているのが、スターウォーズをメタ的に描いた最後のジェダイと重なる。今度はミュージカルもやってみたいと彼は語っていましたが、とんでもないものになりそうなにおいがプンプンする…!
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