akqny

We Margiela マルジェラと私たちのakqnyのレビュー・感想・評価

3.6
ファッションには疎く、マルジェラのような熱狂的ファンのいるメゾンにほとんど興味がない。ルックブックのビジュアルはカッコいいと思っても、その先の服に圧倒的な熱量を持つこともなく、自分にとっては路面店をいくつも構えた海外の高級メゾンよりも、作り手の顔の見えるもので充分だった。

それでもそんな顔の見える作り手の作品も、歴史からコラージュしたようなものもあり、やはりマルジェラという存在はいつでも耳にした。ファッションにおいて全く新しいことを打ち出すのが難しいのはマルジェラやギャルソンなんかがやってしまったから、なんてことも聞いた。

いまではサンプリングされまくるメゾンの歴史を知る上でも、この映画の内容はとても良かったが、内容はかなり暗い。
業界全体がそうなのかもしれないが、彼らが葛藤や疲れやストレスを今でも抱えながらあれだけのものを生み出しているという事実。そして神格化されるまであるメゾンの歴史に、インタビューを通して誰も正面から向き合えていないように映ったのは、正直不思議だった。
We Margielaという三人称複数は、その匿名性の証として強くもあり弱くもあるのだと。


最近、仕事はお金じゃなくて好きなことやりたいことを突き詰めたいです。みたいな価値観がメインストリームで、会社員やってんのダサいみたいな風潮も一部あるが(これはクリエイティブ界隈もビジネス界隈もそんな気がするが)、結局はマルジェラ自身も自分の仕事に悩んだことを聞いて、彼ほどの人でも途中で辞めたくなるんだと、なんだか安心した。神格化され過ぎているので、当然尋常じゃない熱量とエネルギーで仕事を生きがいにしていると思っていたから。

その環境の中にいると、つい自分を見失ってしまう。自分にはそれだけしかないように見えて視野が狭くなる。それでも案外別の側面から自分の価値は見えるもので、それに気づくのは現場を離れてからなのは、常に世の摂理なのだろうか。
akqny

akqny