Kientopp552

元禄忠臣蔵 後篇のKientopp552のレビュー・感想・評価

元禄忠臣蔵 後篇(1942年製作の映画)
3.0
 吉良邸の赤穂浪士の討ち入りの場面では、本来ストーリーのクライマックスを形作るであろう討ち入りが、内蔵助が別れを告げた、今は亡き内匠頭の正室瑤泉院の傍で、そのお付きの戸田局(梅村蓉子)が、本懐を遂げた四十七士の一人から届いた書状を読み上げることで、映像なしで、しかし、梅村の名演によりドラマチックに語られる。これほどのアンティ・剣戟映画があるであろうか。

 その逆に、討ち入りが終わった後の、ご公儀のご沙汰を受けて切腹するまでの内蔵助たちの姿に、カメラは、長回しの位置は保たれるが、あの冷たい距離感をなくして、「義士」たちに寄り添う。まるで、死に花を咲かせるために待機する特攻隊員の運命を予感でもするかのように。

 ここに、大衆から隔絶した、孤高の、ほとんど芸道の極を窮める、士道の自己陶冶の精神が示されたのであった。映画の冒頭に示される「護れ、興亜の兵の家」は、その精神において、その祈りは叶えられたのであった。(後編の後半、重要なプロットとなる、お小姓姿に身をやつした、高峰三枝子が扮する「おみの」の愛と死は、そうは言っても、恐らく隠された本音の、本作の浪漫のクライマックスであろう。)
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