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ウエスト・サイド・ストーリーのPDLのレビュー・感想・評価

3.8
スピルバーグがいまウエストサイド物語(1961)をリメイクするという企画だけでメッセージは十分。
だからかえって、これから悲劇をみるのかという気の重さもなく、素直にトニーとマリアのロマンスや世知らぬ危なげなストリート・ギャングたちの色気を楽しむ気持ちで観にいった。

ダンスパーティ、出会い、アメリカ、深夜の逢瀬と魅力的な楽曲と身体性を楽しんだ。

もっとも光るのは1961年版でアニータ役をつとめたモレノが本作でバレンティーナ役をつとめるというギミックだ。バレンティーナが店で匿うゴロツキからアニータは暴行を受け、彼女の怨念こもる呪詛により今世もまた自らが惨劇の終幕に関わってしまう。憎しみの応酬は淀むことなく滑らかに、撃鉄を起こすことなく引き金は引かれるのだ。凄惨な現実は、世代を越え今日にも変わらず再生産され続けている。

個人的には、ジェントリフィケーション、ジェンダー、人種など現代的なテーマを盛り込み分断の悲劇を描くというテーマ設定自体に食傷気味なケもある。分断を加速させる男性性をみることにも辟易とするし、もっといえば、ウエストサイド物語自体がロミオとジュリエットを下地にした米国版ヤンキーロマンスモノ的なところもあり、この背後にあるのは、受け継がれる貧困と教育の話なのだ。原作から時を経てなお、いまだに普遍のテーマとして社会に横たわっているという事実が何にも勝る悲劇なのだ。
正直、いい年してエゴや怨みつらみで生きる連中は勘弁してくれと羊の代わりにニーヴァの祈りを曼荼羅に唱えて目を瞑って夜は寝た。
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