マスター・オブ・シネマの仕事。
映画史が踊り出す。
オリジナル未見のまま、やる気なく観ていたのに、あまりの映画的躍動感に仰け反った。
フィルムが捉えた光、空気、匂い。
美術とセットに命が宿り、世界が構築されていく。
衣装は役者の身体性を遺憾なく発揮させ、ダンスを輝かせる役割を完璧にこなしている。
小道具までがキャストとしての存在感を持ち、全てに意味をもたらす。
役者の身体性を信じて、目眩のするようなエネルギーを爆発させて、こちらに迫ってくる。
古臭いはずの古典が、完璧に現代の分断と差別を表現してしまう皮肉と、その高い演出力に唸る。
最後にかすれた声で歌われることで、迫るメッセージ。
娯楽的なミュージカルに挟み込まれる生々しい暴力が浮き立つ瞬間に、今この世界に起きている問題が脳裏に浮かび上がる。
今までスピルバーグは、シリアスとエンタメに引き裂かれ、矛盾したバランスで成り立ってきたと思う。しかし、ついにインディジョーンズ並の娯楽とプライベートライアン並の突き刺さる暴力の両立が溶け合う着地点を、この古典リメイクで極めたのではなかろうか。
まだ成長し、古いものを大切にしながら、若々しくあろうとする映画の狂人。
次回作は自伝的作品とのことで、もう考えただけで胸が高まる。お願いだから不死となって永遠に映画を作り続けてほしい。彼がいない映画界なんて想像つかない。
映画の生き神様の仕事を観れて眼福でござる。