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カムガールのnetfilmsのレビュー・感想・評価

カムガール(2018年製作の映画)
3.5
 固定カメラは無人の部屋を捉える。そこはピンク色のカーペットが敷いてあり、ソファーの前に座ったクマのぬいぐるみや鉢植えの花から女性の部屋だと推測したタイミングで、女性がフレームの中に駆け足でやって来る。その姿は裸にスタジャンを羽織っていて、胸元が露わだが女性は構う様子もなく何かに向けて話し続ける。カメラが静かにズーム・アウトするとゆっくりとPCの画面が姿を現すのだ。アリス・アッカーマン(マデリーン・ブルーワー)はアダルト・サイトのチャット・ガールとして働いていて、ネットの中では「ローラ」と言う偽名を使用していた。彼女はこのアダルト・サイトのランキングで50位以内になったら、もっと過激な放送をしようと秘かに目論んでいた。彼女は弟のジョーダン(デヴィン・ドルイド)と2人兄弟で、彼にはこっそり秘密を打ち明けるが、母親のリン(メローラ・ウォルターズ)には秘密にし、IT関係で起業したと嘘を付いていた。人気急上昇中のローラはそのセクシーな露出とショッキングなパフォーマンスで徐々に人気を獲得して行くが50位に上がった瞬間、1位のPrincess_X(サマンサ・ロビンソン)にネガティブ・キャンペーンを張られ、見る見るうちにランキングは低下して行く。一進一退の攻防を続けていたある日、彼女は自分のパスワードでログイン出来ないことに気付く。

 SNS時代の到来により全ての思想や出来事は容易に可視化されるようになったが、それによる功罪で言えば罪の方が大きいのではないか。バカッターという名のいわゆる「バイトテロ」は大抵が拡散されるはずのないネット・コミュニティにアップしたことで、たちまち拡散されて問題になるが、当の本人たちには炎上している自覚もない。あってもフォロワーが何人増えて良かったというフォロワー数の増減にしか目が行かず、物事の本質を見ようとしない。今作のヒロインもアダルト・ライブ・チャットでベスト3になったら母親に自慢しようとしているのだが、少し考えれば肌を不特定多数の前で露わにし、ランキング上位に入ったことで母親が喜ぶはずないとわかりそうなものだが、彼女は昼も夜もなくこのライブ配信に文字通りのめり込むのだ。よくSNSで頻繁にプライベートを晒すこと=承認欲求丸出しだと思われがちだが若い時は自分の生活を華やかに見せがちなのが当たり前だという気もする。だがSNSサイトの順位にいちいち一喜一憂する様は非常に危うい。そこには自分自身という価値基準がおざなりとなり、他者の評価によって自分自身が知らず知らずに振り回されていることに気付かない。

 映画は結局、乗っ取り犯を明らかにしないが、タチの悪い冗談にしか思えない画面上のもう1人のローラはおそらく、錯乱した彼女が見たもう1人の自分からの警告なのだ。然しながら通常ならば自分>幻視となるべきところが、幻視に惑わされた彼女は最後にとんでもない決断をしてしまう。一見ハッピー・エンドのようにも見えるが実は真逆なのだが、この辺りのことをどう据えるのかはデジタル・ネイティブ世代とデジタル・イミグラント世代で評価の大きく分かれるところかもしれない。凡庸な映画ではあるが、ところどころハッとさせられるような視座に富んでいるのも事実で、デジタル世界での「FAKE」の意味を改めて考えさせられた。
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