黒を際立たせるのは白。
闇を際立たせるのは光。
「シリアルキラー」の語源ともなった稀代の殺人鬼テッド・バンディは、IQ160の頭脳と美しい容姿を兼ね備え、司法、メディア、民衆を惑わせた。長年の恋人リズの目線で語られるテッドの姿は観衆までも虜にする。
期待したものとは違ったが、これはこれで面白い。
シリアルキラーを描く作品であれば、犯行の残虐性をとことんまで描いて欲しいと願うのが人の性(さが)。しかし、この作品は全く別の手法で彼の残虐性を描き出す。しかも映画のラストで!!
3度の死刑判決に対しても徹底的に無罪を主張するテッド。使えない弁護士は即刻に見限って、自らが弁護人となり徹底抗弁!!
裁判の行く末を見守っている内に、「本当は無実なんじゃ…」という思いが何度も脳裏を過(よ)ぎる。彼の犯行を裏付ける決定的な証拠は出ていないのだから。
「ハイスクール・ミュージカル」でキラキラしていたザック・エフロンが、ただの爽やかハンサムボーイから見事に脱却し、今回は実にハマり役。
本当にやっていないかも知れない白さ。
本当はやったかも知れない黒さ。
この塩梅が、まぁ絶妙!!
リズ役リリー・コリンズも、お伽話のお姫様的なイメージだったけど、今回はテッドの持つ善と悪の二面性に翻弄される、女性の生々しさを好演。
テッドを盲信していたもう1人の女性、キャロル役のカヤ・スゴデラーリオも印象的だし、裁判官はジョン・マルコビッチでテンションが上がる。
テッドの最後の独白に、背筋が凍る。
こいつは…
こいつは…
極めて邪悪、
衝撃的に
凶悪で卑劣だ。
…と言いたい所だけど、映画としてはその全ては描けていない。徹底的に善人らしく描く事で、最後にその闇の深さを際立たせる事に終始したからである。その手法は評価するが、パンチとしてはやはり弱め。
彼が行った忌むべき犯行の数々は、こんなものではない。
最後の弁護士チームにいたポーリー・ネルソンは「テッドは残酷な悪魔がいるとすれば、その定義どおりの男」だと語る。
しかし、どんな凶悪犯だったとしても、死刑が執行された後、歓喜の声を上げる民衆を見て、それもまた恐ろしいと思ってしまう。人の死には厳かに慎み悼む気持ちが必要なんじゃないだろうか。