ワンコ

キラーズ・オブ・ザ・フラワームーンのワンコのレビュー・感想・評価

5.0
【アメリカのもうひとつの歴史】

アメリカの暗い部分と、これをそのまま放置しておけないとするもう一つの姿もコントラストとして表した作品だ。

渾身の一作になったんじゃないかと思う。

特に、マーティン・スコセッシと、プロデュースも兼ねたレオナルド・ディカプリオ、そして、ロバート・デ・ニーロにとってだ。

あっという間のの206分だった。

この原作が発表された時点で、マーティン・スコセッシが監督して映画化するんじゃないかという憶測があった。

そして、スコセッシのアメリカ近現代史をテーマに扱った作品としては、ロバート・デ・ニーロも出演した「アイリッシュマン」と同様、長尺の映画作品となる。

この作品の背景には、アメリカの長く暗いの歴史が断面に刻まれている。

アメリカン・インディアンのオセージ族は、ヨーロッパ人がアメリカ大陸に進出してくる以前は、ミシシッピ川とミズーリ川の合流域周辺の広大でとても肥沃な土地に暮らすインディアンの部族だった。
両河川とも北アメリカ大陸を代表する大きな川だが、ミシシッピ川はナイルやアマゾンと並んで世界三大大河と称されることもある。

そして、その西側には東欧のウクライナと並ぶ世界的にも肥沃で広大な小麦の一大産地グレート・プレーンズが広がり、そのあたり一帯でオーセージ族はバッファローなどを狩り、暮らしていたのだ。

そこにフランス人探検家が入り、ミシシッピ川をメキシコ湾まで下り、その流域全域をフランスの植民地とし、その一部はルイ14世にちなんでルイジアナと名付けられることになる。

当時は、フランスのほか、イギリスやスペインも北アメリカの植民地化を進めており、話し合いで支配地域を定めたりしていたが、結局は戦争を経て支配地域は二転三転するものの、その後、アメリカ合衆国がイギリスから独立、そして、当時フランスを支配していたナポレオン・ボナパルトがルイジアナを含めた広大な土地をアメリカ合衆国に譲渡することになり、ここからオセージ族の流浪が始まることになる。

当初は、小麦栽培に適したグレート・プレーンズの開拓・管理することが、アメリカの大きな目的だった。

そして、1800年代初頭から、アメリカ合衆国とオセージ族が条約を締結する形で、移住が始まる。
彼らが暮らしていた複数の州に跨る広大な土地は、その後、更に、なし崩し的に徐々に狭められ、ヨーロッパ人が持ち込んだ病気の蔓延によるアメリカ原住民の人口減少や、アメリカ南北戦争の混乱も要因となって、彼らの居住区域は一層狭まり、1800年代の終盤には、当時”インディアン準州”と呼ばれていた現在のオクラホマ州に安息地となるはずの居留地を定めることになる。オセージ郡だ。

ただ、”定める”とは言っても、オセージ族は、その土地を自ら対価を支払って購入したのであって、その土地も、その土地に付随する資源も含めた権利も全てオーセージ族に法的な所有権が認められたものだった。

これが、この映画の前提であり、悲劇の発端となる。

主要な化石燃料が、石炭から石油に転換するエネルギー革命の時代の初期。

(以下ネタバレ)

どんどん豊かになるオセージ族に対して、指を咥えて見ているだけではなく、婚姻を通じて受益権の獲得を目論む白人連中。

様々な殺人行為が行われるが、モーリーの大統領への訴えが効いたのか、連邦捜査局(FBI)が捜査を開始する。

当時、FBIはフーヴァーが作った新しい組織で、アーネストやキング(ビル)が探偵かと勘違するほどだった。
州の権限を超えて捜査権を行使するFBI。

冗長で雄弁なキングに対し、静かに調査を進めるトムをはじめとするFBIの捜査は対照的だ。

捜査によって全ての殺人事件が明らかになったわけではない。

ただ、ここにはアメリカのとても暗い歴史が含まれているものの、同時に犯罪は暴かれ、償われなくてはならないというアメリカの良心も表されているんじゃないのか。

これは、実は、自らの負の歴史を曖昧にするのではなく、誰もが分かるような映画という形で残すというスコセッシやディカプリオ、そして、デ・ニーロ達の考え方に通じているのではないのか。

日本では最近では福田村事件の映画も制作されるなどして、同様なムーブメントがあったように思う。

壮大な歴史物語じゃなくても、多くの人の心にのしかかるように響く作品は出来るのだ。
ワンコ

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