グラッデン

キラーズ・オブ・ザ・フラワームーンのグラッデンのレビュー・感想・評価

4.4
マーティン・スコセッシ監督の最新作。アメリカ先住民の連続殺人事件を取扱ったノンフィクション小説を原作に持つ物語。仄暗さの印象が強い映像の作り、物語の流れ等、悪党が暗躍する往年のスコセッシ作品らしさを感じたが、アメリカの歴史の闇に埋もれた事実に光を当てたことで趣の異なる仕上がりだったと思う。

物語の背景となる出来事から、HBOドラマ版『ウォッチメン』に登場した1921年のタルサ暴動(KKKによる黒人街の暴動事件)の存在は意識していたが、同時代、同じオクラホマで発生した事件だということを劇中で知り、大きな衝撃を受けたのは自分だけではないはずだ。

1920年代のアメリカと言えば、個人的にフィッツジェラルド『グレート・ギャツビー』(バズ・ラーマン監督の映画版ではディカプリオも主演)に代表される「狂乱の時代」のイメージが強い。しかし、こうした事件を踏まえると、狂乱の延長線にある「混沌」が国内にあったと理解することができる。KKKに限らず、白人以外の人種に対する考え方の危うさには、画面上で展開される凄惨さに留まらない怖さを感じた。

物語はローテンポ、淡々と進む。3時間超の上映時間を踏まえると、一昔前ならばカットされた場面は多々あるだろう。個人的に集中力を切らさず見ることができた。それは、前述の底知れぬ不穏さがもたらす緊張感が続いていたことも大きかっただろう。

消されてきた歴史を、今の世の中に広く伝えることは映画というアートフォームだから出来ることだと思う。80歳を超えた名匠の仕事ぶりに唸らされた。