るか

キラーズ・オブ・ザ・フラワームーンのるかのレビュー・感想・評価

4.5
4月に咲いた美しい花々を後から生えてきた雑草が枯らしてしまうという「花殺し月」。タイトルから今作を非常に上手く描写しているものと言える。
「非世間」であったネイティブアメリカンの村は油田の発見により市場世界へと取り込まれた。冒頭で流れるニュース映像では束の間の彼らの栄華が見られるが後にやってきた“雑草”である白人たちによって彼らの富は根こそぎ奪われる危機に瀕する。
スーパーモダナイゼーションによる世界の均一化が現実世界で起こる中、そのメタファーとしてネイティブアメリカンの世界に白人(今作の場合はプロテスタンティズム的資本主義)が侵略する作品を描く監督のセンスたるや素晴らしい。そして単にその二項対立にはせずにいつもの監督作のように二つの世界のはざまで引き裂かれる主人公という立ち位置は良かった。グッドフェローズやウルフ・オブ・ウォールストリートのようになりあがっていく過程を楽しく描かずに、ひたすら愚かで空虚な栄光として見せることでエンタメとして消化させない監督の決意が伝わり、最後にはとどめとして自らがプロパガンダの語り手として出てくるのも秀逸。
印象的な画角も多く、細かいレイヤーの切り替えや寄りと引きのバランスは御歳80歳の巨匠の引き出しの多さを遺憾無く披露した。
ただ3時間半という時間は間違いなく長く、物語上の物事を整理するにはかなり疲れた。さらにいえばこれは全てのスコセッシ作品に言えてしまう事だが、我々アジア人にとってはジムだのビルだのウィルだの似た様な名前のリアリスティックなキャラ造形の大量の白人たちは常に混乱を引き起こす。ここに文句を言うのは野暮で無意味なのは重々理解しているもののやはり辛いところだ。
それでもディカプリオとデニーロのコンビは素晴らしいし、その二人に負けないくらいの存在感を放っていたリリー・グラッドストーンは間違いなくアカデミー賞候補だろう。まごうことなき巨匠の作ったまごうことなき傑作だ。
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