青眼の白龍

スリー・フロム・ヘルの青眼の白龍のネタバレレビュー・内容・結末

スリー・フロム・ヘル(2019年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

ロブ・ゾンビ監督による〈マーダー・ライド・ショー〉シリーズ最新作。14年ぶりに公開されたまさかの続編だが、ライドショー要素は微塵も残っていないため邦題も変更された模様。第一作目では古今東西の殺人鬼や80年代スプラッターホラーへのオマージュを盛りこみながら、アメリカの片田舎で猟奇殺人を繰り広げるファイアフライ家の姿が描かれた。続編となる『デビルズ・リジェクト』は、警察に追われる身となった“究極の悪魔”の破滅をアメリカン・ニューシネマ風スタイルで描ききった傑作である。2があまりにも完璧な結末だったので、続編はあり得ないと思っていたのだが……

第三作目となる本作では、銃撃戦を奇跡的に生き延びて郡刑務所に収監されたベイビーとオーティスのその後が描かれる。異母兄弟のフォクシーを加えた三人が殺戮を繰り広げながらメキシコを目指すというストーリー。本作はアメリカ編とメキシコ編の二部構成となっており、中盤までは兄妹の脱獄計画に焦点が当られている。印象に残ったのは独房のベイビーが仔猫の幻覚を視る場面。本筋とは関係ないものの、突然の『イレイザーヘッド』感に大興奮。彼女が現実と異なる位相で生きていることがダイレクトに伝わってきて良かった。また刑務所長の自宅が襲撃される場面ではオーティスらの手による凄まじい鬼畜行為が展開し、ジャック・ケッチャムの小説のごとき暴力の嵐と緊迫感を堪能できる。
中盤以降はまたしても作風がガラリと変わり、ロバート・ロドリゲスの映画を思わせる硬派なバイオレンス路線へ。脱獄の際オーティスによって殺害されたロンド(前作登場したダニー・トレホ)の息子に襲撃され、三人はマフィアの復讐劇に巻き込まれることになる。メキシコ到着以降はそれまでの鬼畜っぷりが嘘のように身を潜め、三人が普通の人間として描かれていることに違和感が拭えない(あのベイビーが荒くれ男たちとナイフ投げを楽しみ、小男と仲良く食事するのだから驚きだ)。女囚人にデスマッチを仕掛けられたり、ランボーのように弓矢で敵を射殺しまくったり、ところどころ面白い要素もあるが……いかんせん前半と後半の作風の落差が激しく、一本の映画として統一感がなかったのが残念。個々のキャラクターが前半の狂気を最後まで維持していれば違った評価になったかもしれない。

頭のおかしな殺人一家を様々なシチュエーションに投げ込んで暴れさせる──いわばホラー版タランティーノとでも言える本シリーズだが、今作ではコンセプトとキャラクターの融合が上手くいっていない印象を受けた。無秩序な殺戮の帰結として警察に追い込まれていった前作とは異なり、後半で突然現れた復讐者を倒すだけのクライマックスはカタルシスを感じづらい(敵対者にもワイデル保安官のような魅力がなかった)。また前作のラストシーンは“死ぬとわかっていても走り続けるしかない”という気迫に満ちていたが、今作のベイビー達は単なる流浪者にすぎず、生死を賭けて戦う理由が見当たらない。そうした主人公たちの目的のなさ、アイデンティティの空虚さがエンディングの空撮に反映されているように思えた。