APlaceInTheSun

幸せへのまわり道のAPlaceInTheSunのレビュー・感想・評価

幸せへのまわり道(2019年製作の映画)
4.7
偶に「セラピーのような作品だった」という言い方を目にする事がある。
正に、この作品はセラピーそのものだ。

人を許す事は、すごく難しい。
自分が拘り続けた事に見切りを付けるような作業だから。
自分自身、表向きはサッパリした好青年(違った、好オジサン)を演じているが、長年許せなかった人が居たりした。
それだけに、『人を許す』というテーマに正面から向き合い成功している作品は心に刺さる。
(今年度公開の「行き止まりの世界に生まれて」のある場面など、いくつも映画作品が浮かぶが、漫画「バガボンド」31巻も。又八のオババが亡くなるくだりは何度読んでも泣かされる)


『不思議なことに、時に人は愛している相手ほど許すのがむずかしい』
『許す事とは、怒りを解くと決断する事なんだ』
この映画は金言で溢れている。でもこれらのメッセージを下手に盛り込むと、説教臭くなったり重苦しくなったりしがち。
本作がそれを回避できているのは、子供向け番組というモチーフを巧みに取り入れているから。

トム・ハンクス演じる人気司会者ロジャースが聖人や完璧な人じゃなく「ほんの少し変な人なのか?」と思わせる絶妙なバランスの人物になっている。
その実は、やはりトコトン優しく人により沿ってくれる(彼の努力の賜物でもあった)。
まさか、ロジャースと見つめ合うとは!

観客は(主人公も)童心に帰った気持ちになり、心の殻を破られる。
作中で時折登場する、カラフルな街のミニチュアや、動物キャラの人形もそういった効果に大きく貢献している。

主人公が過去のわだかまりから開放され、人を許すまでの過程。これが丁寧に描かれているから、観客の感情を揺さぶる事が出来るのだろう。

主人公の父親、主人公、主人公の赤ちゃん。3人がベッドの脇で一つの画面に収まり、再び心を通わせる。この映画の中でも最も感動的な場面の一つだった。

【さらに余談】
あまり語られてないかもしれないが、作中で鳴らされる曲や歌はどれも素晴らしかった。
ロジャースが歌いながら映画が始まり、番組の登場人物に続いて主人公を紹介する。
良い映画が始まるワクワク感がたまらなかった。
今年観た映画オープニングでもトップクラスに良かった。
APlaceInTheSun

APlaceInTheSun