幸せのさちこ

殺さない彼と死なない彼女の幸せのさちこのネタバレレビュー・内容・結末

殺さない彼と死なない彼女(2019年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

打ち込んでたサッカーを奪われて、青春の真ん中にいるようなクラスメイトたちが疎ましくて何にも興味が持てない。
そんな小坂が、鹿野に興味を持ったのは、
自分と同じように青春から外れていたからなのかもしれない。

小坂の「殺す」「死ね」の中に、
少しずつ滲んでいく鹿野への想い。

最初はたぶん、構いたい、くらいだったと思う。
それが段々と、放って置けない、かわいい、守りたい、愛おしい、好きで好きで仕方ない、に育っていった。

間宮祥太朗の演技力と、桜井日奈子の魅力によってその小坂の心情が痛いほど流れ込んでくる。

言葉では真反対のことを言っていても、お互いがお互いの代わりのいない存在になっていく小坂と鹿野。

そんな2人と対照的に描かれるのがきゃぴ子。
いつだって分かりやすい愛情だけを求めていて、いつだって失うことに怯えている。

失うくらいなら自分から壊してしまう「殺さない彼」の対局にいるような女の子。
同時に、殺せるもんなら殺してみろ、と何度だって言い返す鹿野の対局にもいる。

この作品では小坂と鹿野が引き裂かれてしまうから、きゃぴ子は「親友」という「姓が干渉しない安定した愛情」に気付いたんだと思う。

鹿野が未来へのバトンを渡した撫子は、
そのバトンをしっかりとゴールまで繋ぐ。
撫子と八千代はいつだってはちみつ入りのホットミルクのようなメルヘンで甘い世界の住人で、小坂と鹿野の救われない最後を優しく包み込む。

この2人の話がなかったら、
この映画はきっとただの悲恋ものになっていたと思う。

最後の夢の中の小坂と鹿野が愛おしすぎて、もっと観たい、この2人だけを2時間追い続けたい、と思ってしまう。

けれど、きゃぴ子と地味子、撫子と八千代のそれぞれのパートは、どちらも小坂と鹿野の2人のストーリーを「フィクション」から「ノンフィクション」へと、地に足をつけさせるために必要だったんだと思う。

冒頭の、
すべての眠れぬ夜に捧ぐ
の文字がふさわしい
観る人を全肯定してくれるような映画。