慎一郎

盆唄の慎一郎のレビュー・感想・評価

盆唄(2018年製作の映画)
5.0
個人的に諸事情あるのでフェアな評価かどうかは置いときますが、、、じんときた。よくぞ完成させてくれた。まずはぜひ多くの人に観てほしいなあ。

盆踊りは「輪」の踊り。櫓を中心に人が連なり、廻り廻る。その「輪」もしくは「渦」の意味についてはぜひレヴィ・ストロース先生あたりに深く解釈してもらいたいところですが、ひとまず「コミュニティ」の象徴であることは当然のこととして、僕としてはまたひとつ「個人の歴史を共同体として共有し、共同体の歴史を個人の身体に取り込む」行為でもあるのだろうと思いました。

原発事故で土地を離れざるをえなかった人々。深刻な貧困から脱却するためにハワイに移住した人々。ひとりひとりのなかに内在する歴史。言葉に変えることができない、喪失の歴史。「盆唄」はそうした個々人の喪失をひとつの「渦」にとりこみ、溶かしていく。溶け込んだ喪失は、踊りを通して他者に共有され、共同体の歴史に昇華される。そしてまた、共同体を形成する個人の身体へと還流していく。この映画が美しいのは、そうした喪失と再生の過程を過不足ない取材によって明らかにしているからだと思う。

わたしはもともと社会学出身なんでどうしても上記のような視点が中心になるのですが、重厚な歴史ドキュメンタリーとして、あるいは原発問題の闇の深さを改めて考える映画として、他にもさまざまな見方ができる映画だと思います。なんか客の入りが悪いらしいですが、ぜひいま、観ておくべき映画だと思うぞ。全力でおすすめしておきます。
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