せきとば

ザ・ピーナッツバター・ファルコンのせきとばのレビュー・感想・評価

3.8
突然人は生まれるのである。しかも自分以外は”みんな”それを知っている。生まれてくる自分だけがなにも知らないのだ。

気づいたらはじまっていた人生を生きていくのは難しい。過ぎ去っていく時間に飲み込まれずに2本の足で立ち歩き泳ぎオールを掴んで漕いでいける人はどれだけいるか。

だからザックは自らの力によってこの世界に生まれなおすことで生きていくことにした。豪傑同士が結合してやっとこさ曲げられるような鉄格子を1人で難なくこじ破る怪力を見せつけて。

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興味がない人からしたらプロレスなんて茶番でしかないだろう。だが、一定の掟に従って身を任せたり、時にそれに抗ったり、最期に3カウントが入るまで相手と己でプロセスを掴みとっていくことはまさに生きることそのものである。

我々は生まれたその瞬間から死への花道を歩かされている。出来ることなら納得して死んでゆきたい。その為に不遜の死には抗いたい。美しい死に方探しこそが人生の重大な宿命のひとつだ。

”生き方”の結末が決まっていることをもって人の一生を茶番と一蹴できるだろうか。

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人生のプロセスには如何ともしがたいことが沢山起きる。仲間の裏切り、突然の事故、優しくされたことが裏目に出ることなんかしょっちゅうだ。

思い描いた通りにはならないからこそ、我々一人一人にはそれに抗う権利と力が備えられている。

それは時にとてつもない勇気が必要なことだが、逆にいうと、その勇気さえあれば、そしてその勇気に寄り添う覚悟さえあれば、我々は本来どんな大男だってこの両腕で投げ飛ばしてノックアウトできるのだ。
せきとば

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