柏エシディシ

ザ・ライダーの柏エシディシのレビュー・感想・評価

ザ・ライダー(2017年製作の映画)
4.0
思っていた以上に素晴らしく、そして野心的な作品で驚いた。
「ノマドランド」公開に合わせて、どこか劇場で掛けてくれないだろうか。
吸い込まれる様な荒野のマジックアワー。
大きなスクリーンで観たい。

騎乗中に大怪我を負い復帰もままならないほど事故の後遺症に苦しむロデオライダーが、それでもカウボーイとしての生きる道を諦めきれず葛藤する物語。
お話としては劇映画として有り体のプロットだけれど、本作が特異なのは主人公をはじめキャスト陣が"ほぼ"本人達が演じている、という事。
肝なのは"ほぼ"というところ。
例えば、イーストウッドの「15時17分、パリ行き」の様な出来事をほぼ忠実にトレースする様な「再現VTR」であれば、ある意味凡庸な作品になっていたかもしれない。
中国人である監督クロエ・ジャオの異邦人としての視点や一定の演出を介することによって、"事実"とはまた違う"真実"が表象していく映画の魔法。
映画とは、いわば「大きな嘘」
それが時にこの世界や人間の本当の姿や感情を露わにさせる。
事実と虚構のその曖昧さに本作はある意味極限まで挑戦した野心作、であると同時に映画という芸術の本分に立ち返ったプリミティブさがある。

ただ、鑑賞者のそんな大仰な思い込みをするりとかわす様に、本作が描き出すのはあくまで、この世界の片隅に、何処にでもある様な自然と家族に囲まれた小さくて儚い物語。
遠いアメリカの大地、生死を賭けたカウボーイの喪失と再生の物語に、心が共振する。

クロエ・ジャオ。「ノマドランド」も楽しみだ。
柏エシディシ

柏エシディシ