Oscar

ホテル・ムンバイのOscarのレビュー・感想・評価

ホテル・ムンバイ(2018年製作の映画)
4.0

"Guest is God."

当たり前にしてはいけないこの言葉。
ましてや、今回の場合は無差別殺人テロという非常事態中の非常事態だ。
そんな中でも、客と従業員という立場を最後の最後の最後まで一切全く捨てなかった彼らを、まずは讃えなければならない。
当たり前にしちゃいけない。
絶対にしてはいけない。


彼はどう思ったのだろう。
靴一つをたまたま落としただけで生き延びてしまった彼。
たまたま靴を忘れてしまったことで給仕係に選ばれなかった彼。
願ってもなかった奇跡に救われてしまった彼。
不注意で女性を助けることが出来なかったこと彼は、どんな感情で炎上するホテルムンバイを見上げたのだろう。

ラスト、裸足でバイクに乗り帰宅する彼の呆然とする顔が今でも忘れられない。
決して助かって良かったとは言いきれない複雑な感情。
ほぼ五体満足で、家族にも再会してしまった彼。
観客の目線ではホテル1ヒーローの姿で映っていても、彼の肩を叩きながら「よかったな」と声をかけられないのがなんとも悲しい。


神ってなんなんだろうなって思う。
この事件の発端はきっと断定的なものではなくて、様々な差別や犯罪や宗教的なものが一つになって巨悪な首謀者を作ってしまったのではないのかなと感じる。
そういう首謀者はいつだって神を唱えて、部下たちにも神を祈らされてその行為を正当化させて実行に移しますよね。
神もたまったものじゃないですね。
一大学生がとやかく言ってなんとかなる問題じゃないけど、そういうモヤモヤしたものが原因である日突然殺されるなんて、なんか虚しいなと感じますけどね。
怖いとは思う。
その現実に怖いなとは思う。
実際こんな場面に出くわしたら人一倍パニックになって真っ先に殺されそう。
でも、対抗手段がない。
途中ロシア人も言ってたけど、祈ったからこうなったんだという反論も否定できない。
神も仏もないってこのことなのかなぁ…


実話を基づいた映画は数あれど、そのリアル感は段違いの傑作。
特に犯人たちの容赦ない銃撃、音、人を殺すときの空虚な目が何よりも際立っていて、終始緊張感が拭えない。
知らず知らずの間、上映後にはとても疲れてましたね。
緊迫したシーン一つ一つに余計な音楽を使わなかったことも高評価。
映像の見せ方がよくわかってる作りでしたね。
「志村後ろー!!」ばりにひょっこりと現れる犯人たちにもハラハラさせられました。
中継ニュースを通じて首謀者に避難手段が筒抜けというのも、なんともインドにありがちだなと思いましたね…


みんな笑顔で平和に過ごそうよなんて口が裂けても言えません。
でも、数ある戦争やテロの多くの原因か憎しみの連鎖である以上、もうそういう単純な思いとか人と人との優しさなんかが解決の糸口になったらいいなと思いましたね。
今回の「お客様は神様」じゃないけどさ。
なんか、ホント、どうにかならないもんかな。

ラストのラストの、あともう少しで逃げ切れるところで亡くなってしまった優しいメガネの爺やが忘れられない。
最後の最後までお客様を先に行かせていたんですよね。
実在する人なのかな。実在するんだろうな、きっと。

当たり前にしちゃいけないな、やっぱり。
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