たわーりんぐいんふぇるの

小さな池 1950年・ノグンリ虐殺事件のたわーりんぐいんふぇるののレビュー・感想・評価

5.0
2000年にピューリッツァー賞探査報道部門を受賞した作品。
朝鮮戦争当時発生した米軍による一般市民に対する無差別爆撃事件「老斤里(ノグンリ)事件」を扱っています。
特にストーリーがあるわけではなく、避難しろという命令に従った人々が意味もわからず、ひたすら殺されていく物語。
今のガザの状況もこんな感じなのではないだろうか。初めてDVDで見た時は衝撃のあまり2回見たのを覚えています。

戦争中とは思えないほど穏やかな光景の中、アメリカ軍が「直ちに避難せよ」と指示しにやってきます。しかし、その指示は何故か日本語。理由はなんとなく想像できる。
指示通り、村人たちは村の守り神である「大門岩」に一礼し、次々と村を出て行きます。

ごく平凡で日常的な農村風景と、凄まじい殺戮のコントラスト。
残っている交信記録にある米軍の指令「米軍の防御線を超える者は敵として射殺せよ。女性と子供は裁量に任せる」というフレーズがそのまま使われています。
赤ちゃんのシーンは、何が起こったのかをスローモーションのように理解できてしまう衝撃的な描写。
しかし死体を積み上げてバリケードにして、機銃掃射から身を隠したというエピソードだけは、映像化できなかったそうです。

ムン・ソングン、ソン・ガンホ、ムン・ソリ、チョン・ヘジンなど豪華俳優陣が家族を伴い、村人たちの暮らしをリアルに再現しています。しかもノーギャラで。
これは映画の制作が企画された当時、投資家たちが「ドキュメンタリー映画は金儲けにならない」と言って投資をしなかったため、俳優たちが映画制作を実現するために出演料を全く受けない、ノーギャランティー出演にしたそうです。家族なら文句も言わんし。
最後に公開を待たず亡くなったパク・クァンジョンさんへの追悼メッセージがあります。

7月26日から29日までの間、爆撃に生き残った300余名の生存者は線路下の双窟橋に閉じ込められたまま、第1騎兵師団、7騎兵連隊、2大隊からなる軍隊の攻撃を受けました。
300名近い双窟橋の避難民のうち、最後まで生き残ったのは25名でした。
数百名が犠牲になったにも関わらず、「老斤里事件」を認めない韓国・アメリカ政府を相手に生存者と遺族は長い戦いを続けました。
2005年5月になってようやく韓国政府は、傷害、死亡、失踪などの犠牲者218名、遺族2170名を確定したと発表しましたが、アメリカ政府は依然として認めていません。