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ブラインドスポッティングのisknのレビュー・感想・評価

ブラインドスポッティング(2018年製作の映画)
4.5

黒人の差別を題材とした作品は、遠く日本に住んでいる私たちが知るべきという意味で、見る必要のある映画だと思うが、今まで数多くの良作がある以上、それを評価する目線は厳しくなってしまう。

だが、本作は現在進行系の黒人と白人について、いや今まさにアメリカが抱えている問題についてを描いている点で、新鮮さがあった。また、こうするべきという押し付けがましさがない一方で、観客に難解さを与える作りをせず、直球にメッセージを放つのも好印象だった。タイトルがブラインド・スポッティング(盲点)という点でも、小手先で勝負するわけではないのだという製作陣の姿勢が伝わってくる。

オークランドに住む主人公・コリンは犯した罪の刑期から、1年の保護観察期間に移行していたが、その終了が3日後に迫っている。彼は職場も同じで親友のマイルズと毎日のように一緒にいることがわかるが、友人からその場のノリで銃を購入するなど、やんちゃな人物であり、コリンはそれに手を焼いている。残りの3日間で彼が何かをやらかす匂いを全面に醸し出しながら、主人公は白人警官が黒人を射殺するところを目撃してしまうのだった。

軽いノリやラップ、笑いの要素を取り入れながらも、シリアスさを失わない演出が印象的な作品だ。子供が銃を持った時の緊張感、白人でありながら黒人の文化を愛し、アイデンティティに苦しむマイルズ(8milesに通ずるものがある)、オークランドというラップ文化・黒人文化ごりごりの発祥の地にやってくるヒップフターたち。黒人ということに苦しむ主人公の物語と思っていた観客を悉く裏切っていくのが心地いい。

クールでスタイリッシュになっているようにみえる世界の中心地・アメリカで今ヘドロのように噴出している問題を映画は確実に描写していく。オバマ前大頭領が「万引き家族」と並び、2018年ベストムービー言ったらしいが、両作品に共通する、国の問題を浮き堀りにさせながらも、観客に考える幅を与える作品作りは大変見事だった。

終盤のラップ部分には圧倒される。韻を踏みながら問題の警察官に詰め寄るのだが、それがバックグラウンドのビートと融合しラップとなる演出。英語の細かな意味はわからず、字幕でしかその言わんとすることを理解できないのだが、ほとばしる熱量と実際にラッパーであるダヴィード・ディグスの凄みに圧倒され、頭ではなく心に刺さってくるような素晴らしい映画体験があった。
いきなりのラップに面食らう人もいるだろうが、ラップが生まれたのはメインカルチャーや体制への反発であり、そのやり場のない叫びを音楽という形で昇華させたものである理解すれば、違和感はない。

爽快感や迫力を全面に押し出したアクション作品やスーパーヒーロー達がただ悪を成敗するような映画も良いし、本来映画とはエンターテイメントなのだということを前置きとしつつ、私は作品を見終わったあとその事について数日考えさせられるような映画が好きだ。劇場の暗がりから外へ出るときの、今まで見ていた景色とどこか違う感覚。その瞬間を味わうためにこそ映画は存在するのだと、そう強く信じている。小規模の上映で、新宿武蔵野館という小さなスクリーンだったが、映画がくれた余韻は数日続くほど大きい。
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