万田邦敏監督作品。
無差別殺人を犯した坂口と、その男に惹かれる京子。
かつての人生で家族に見放され、法にも守られず社会の埒外にいた坂口。彼が弁護人の長谷川の弁護を拒絶することはその現れであり、死刑になることを望むのは倒錯的な法の救済である。
そして職場では疎まれ、かといってそれ以外に居場所があるわけではない京子もまた社会の外にいる存在だ。彼に傾倒するあまり石鹸工場で働くことになるが、そこで作られる平凡な石鹸と彼女にどれだけの違いがあるのかは分からない。
二人は愛を深め、誕生の祝福をする。それで物語は幸福に終わる、わけではない。社会の規範は揺るぎなく、物語の倫理が彼らを許すわけではない。
そもそも二人の愛は面会室にあるアクリル板で隔てられているのだから破綻している。石鹸の匂いが二人をつなごうとも香りは常に既に彼方へと過ぎ去る。
あの衝撃的なラストシーンをどう解釈すればいいのだろうか。言語化不能なイメージ。だが彼女の行動原理は納得できる。いや納得させられる。法の外に居続けるには、法が常に必要であって、その法を守り、秩序づけるのが長谷川だ。だから坂口の愛は長谷川へと倒錯的に発展してしまう。そして長谷川もそれを望んでしまう。
京子の狂気的な愛と三人の共依存的な存在形態。この作品は恐ろしいです。