よどるふ

日常対話のよどるふのレビュー・感想・評価

日常対話(2016年製作の映画)
4.3
同じ家に暮らしながらも、まるで他人ように心の距離が離れている母親に対し、娘が“問い”を投げかけられるようになるまでの長い年月が凝縮されたセルフドキュメンタリー。物事の“語る順番”に工夫があるが、それをこれ見よがしにしない語り口に好感を抱く。

上映が進んでいくにつれ、「これは食事シーンを大事に扱っている映画だな」と思うようになった。序盤から料理を含めた食事シーンが出てくるし、母親の親戚宅では親戚のみんなで食卓を囲むシーンが映るし、クライマックスでも食材購入、料理、食事の一連の流れが収められているからだ。

“対話”という腰を据えたコミュニケーションが描かれる一方で、“食事”という「人と人のコミュニケーション」を描くことを映画の中に意識的に取り入れているように見受けられた。オンライントーク後にあった質問コーナーで監督にその点を訊いてみたところ、思った通りの返答を頂いた。

人生にまつわる重大な“対話”が行われるテーブルは、日々の暮らしで“食事”が行われるのと同じテーブルでもある。異なるようにも見えるけれど、どこか地続きなコミュニケーションの形をひとつの場所で見せる。その手法に感心した。

長い道のりを経てようやく繰り出せた“問い”に対して出された“答え”。そんなクライマックスを迎える本作は、最後の最後で軽やかで混じり気のないシンプルな“問い”と“答え”で締め括られる。この眩しさ、鮮やかさをぜひとも多くの人に味わって欲しい。
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