Keiko

人間失格 太宰治と3人の女たちのKeikoのネタバレレビュー・内容・結末

3.8

このレビューはネタバレを含みます

華やかなキャストに、蜷川実花らしい鮮やかな色彩が美しい映画。ただ、やっぱりそれだけだと思った。文学と芸術について語る作品だけど、これはむしろ文芸に明るくない人の方が楽しめる映画かもしれない。

これは小説『人間失格』の映画化ではなくて、それを書いた作家・太宰治が、『人間失格』を書くに至った経緯を描いた映画だ。物語は実話に基づいていて、登場人物の多くは実在の人物である。

史実への配慮が見て取れるし、太宰治にまつわる重要なエピソードは網羅してあると思う。ただ、個人的にはそのエピソードに対する理解が浅いような気がした。

まずもって、太宰治は境界性パーソナリティ障害だったのではないかと言われている。当時はそんな病名はなく、これは現代の憶測に過ぎないんだけど、彼の性格や行動パターンはこの病状によく当てはまる。
まず、人間関係が不安定。常に人に見捨てられることを恐れている。考え方が極端で、人を理想化して褒め称えたかと思えば、突然態度を豹変させて相手を攻撃し始める。
次に、強い自己嫌悪。自分の行動を恥じていて、自分は生きる価値のない人間だと考えている。そこからアルコール依存、薬物乱用、自殺未遂などの自傷行為に及ぶ。
そして、衝動的行動。感情をコントロールできずに、オーバードーズ(睡眠薬などを過剰に摂取)したり、不特定多数の相手と性行為をしたり、深く考えずに思いつきで自殺しようとしたりする。
そりゃあ、他人から見たら「関わるとヤバいおかしい人間」に見えても仕方がない。でも、これは「性格」ではなくて、うつ病と同じように治る可能性がある「病気」だ。
きっと、太宰治は本当に苦しんでいた。自分はなぜこんなにおかしいんだろうと思い悩み、そんな自問自答を小説に記した。それこそが『人間失格』だ。
乱れた女性関係も、単なる性欲からくるものではないんだと思う。

この映画では、太宰治がただの浮気性のクズ男にしか見えなかった。
彼の苦悩が伝わらないし、どれだけ精神を病む描写があったとしても、「なぜお前が泣く? 泣きたいのは奥さんだよ!」と言いたくなってしまう。
蜷川は、太宰治ではなく、むしろ彼を愛した女たちの狂気──特に太宰に心中を強要する富栄の狂気──を描きたかったのかなと思った。

でも、これを太宰治の映画だと思わずに、一人の色男の物語だと思ってしまえば、なかなか刺激的で楽しめる映画だった。
小栗旬は本当に格好良いなぁ。演じたのが彼だからこそ、本作は美しい映画にまとまったんだと思う。表情の一つ一つが色っぽくて、視線の向け方も素敵だった。
美しい人たちのラブシーンって、不思議と生々しくならないよね。

久しぶりに『人間失格』を読みたくなった。私にとっては、共感できる小説だ。
Keiko

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