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ジョジョ・ラビットのisknのレビュー・感想・評価

ジョジョ・ラビット(2019年製作の映画)
4.5
子供の目線から映された映画というのは、それだけで描かれる理由があると思う。自分の現実から飛躍させてくれるのが映画だとするなら、(というか私は勝手にそう思っているのだけど)子供という純粋な目から見た世界は、それだけで大人たちには新鮮であり、彩りのあるものだからだ。本作は、終戦間際のドイツに生きた一人の少年を描く。世界が最も破滅に向かった時代に、10歳の主人公は何を見て、何を想い、何を知り、何を失い、そして何を獲得したのか。

コメディ要素を多く出しながら、随所に提示される戦争のエグい描写が緊張感を失わず、観客を飽きさせない映画だ。前半はコメディ色が強く、映画館で笑い声が溢れていたのだが、後半になるにつれて緊張感が館内を覆い、観客がハッと息を飲む描写が随所にあり、緩急が見事な一作に仕上がっている。また、靴紐やダンスと言ったキーワードからくる描写と伏線が見事で、映画としての完成度が非常に高い。ビートルズの曲をドイツ語版で軽快に流したり、ユダヤ人の血が入った監督がヒトラーを演じるなど、風刺が随所に効いていて、物語にいいスパイスを与えている。

『愛は勝つ』という昔の歌があるけれど、どんな状況でも愛は絶大だとそう感じさせる力がこの映画にはある。そう、愛は勝つのだ。母から子への愛。友達から友達への愛。そして、恋人への愛。世の中が便利になり、生命の危機を感じるような出来事が起きない限り、誰かに強い愛を抱いたり、感じたりするのは今の私たちには難しい。しかし、この映画は私たちが誰かにむけている愛、そして私たちにも確実に向けられてる誰かからの愛を想い起こさせてくれる。YouTubeにあがっているインタビューで監督が「広めるべきはヘイトじゃない、寛容と愛だ」と発言しているのを見た。そう、この映画は愛の物語であり、戦時下でも現代でもそれは不変であるのだということを教えてくれるのだ。

鑑賞中に号泣するような映画ではないけど、観終わったあと帰り道で感動の波がじんわりとひろがるようなそんな映画だ。そして、不寛容で愛が不足した今の時代においてこそ、この作品は強く輝くのではないかと、そんな風に思った。今年ベストムービーではないかもしれないけど、2020年愛おしい映画リストの一番上に来るのは、この映画で決まったかもしれない。
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