がんさ

ギレルモ・デル・トロのピノッキオのがんさのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

「優しい世界」

小学2年生の秋、初めての学芸会の役決めがあった。帰宅して自信満々に役名を告げる私。「ナレーター1になったよ」今でも残念そうな母の顔が忘れられない。

物語の語り部が好きだ。幕開けの第一声。彼が彼女が語りだせば、これからどんな世界が始まるのだろうと胸が躍った。ナレーターが主役だと思っていた。

本作の語り部はこおろぎのジェントルマン、セバスチャン・ジミニー・クリケット。ストップモーションアニメの作りこまれた世界の中に、ユアン・マクレガーの優しい声が語りかけ、冒頭の数分で多幸感に満たされる。

朗々とこの世界について謳いあげた彼がいざ姿を現すと…4本腕に、白目、所在なさげの2本の触角、どこまでも虫だった。ギレルモ・デル・トロ監督、本作も絶好調みたいだと安心する。

この物語は深く考え込んだり、堀り下げたりする必要がない。セバスチャンが、ゼペット爺さんが、ピノッキオが、まっすぐな言葉で語り掛けてくれるから。

木彫りのキリスト像を見ながら、ピノッキオがゼペットに、どうして同じ木でできているのにあの人は人気者なの?と尋ねるシーンがある。ゼペットは、これからみんながお前のことを知るだろうと答える。

こんなに慈愛に満ちた言葉を今までかけられた記憶がない。本作で心の洗濯をするのはいかがだろうか。

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「無垢な狂気に満ちた世界」

傷ついたゼペット爺さんの元へ、ピノッキオは遣わされた。素敵な贈り物をする精霊は…眼球の集合体だ。また目なのか。彼女はペイルマンのお友達なのか??きっとデル・トロは目にとりつかれている。

そう思って天使について調べてみると、意外に人の姿をしていない者が多いみたいだ。私が知らない世界の真実を教えてくれるなんて…やっぱり慈愛に満ちている。

ある朝突然、この世に生を受けたピノッキオ、見た目は子供、頭脳は赤ん坊だ。目の前のあらゆるものを見て、触って、破壊の限りを尽くし、1秒ずつ全身で世界を学んでいく。

ある夜、もっと温まるよとそそのかされ暖炉に近づきすぎたピノッキオは、両足首を燃やし落としてしまう。足を治してあげようとするゼペットにピノッキオは、セバスチャンみたいに4本足にして!と満面の笑みでお願いする。

もうこれ以上無垢な心をもてあそばないでくれ。デル・トロ監督の無垢な狂気がピノッキオに重なっていた。

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何度踏みつぶされても、舞い戻ってきた不屈のこおろぎ、セバスチャンもある朝息を引き取った。

一つまた一つお墓が増え、そして誰もいなくなった。

なんて素敵な幕引きだろう。何故ならこれは、全力で限りある生とその先に待っている死を肯定する物語だから。

鞄を持って、劇場の外に出て、さて明日からも頑張ろうと思った。

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スコアの内訳
ルック1
シナリオ1
役者1
深度1
としました。
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