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天気の子のisknのレビュー・感想・評価

天気の子(2019年製作の映画)
4.5
相変わらずの美しい街の描写に雨の表現が加わり心を惹きつけるアニメーション。主人公が出会う美少女と彼らを支える大人たち。そして、お決まりの観客の心を踊らしてくれる音楽。楽しい映画だが、またこんな感じか。肩の力を抜いて最終部を迎えていた私を、台風のような衝撃と感動が襲った。エンドロールが終わったあと、台風一過の快晴のような穏やかで確かな感動が自分を包んでくれた。いい映画をみた。久々に劇場で味わうあの感覚である。

前作があれほどヒットしてしまえば期待値は当然上がる。そして、監督としても一定の批判があがることは承知のはずである。それでもなぜ新海誠は『君の名は。』から3年、ほぼ休まずに本作を作ったのか。いや、本作を作らずにはいられなかったのか。

ある種の本物の表現者は、作品を作ることを辞められない。何度も引退宣言をしてきた宮崎駿は結局また映画を作り続けているが、そこには作家としての業のようなものを感じる。そして、新海作品が好きな者として、本作は彼の作家性を全面に出しながら社会へのメッセージを放つという難しい仕事をやってのけた傑作に仕上がっていた思った。

もちろん問題はある。それは、この作品の脚本が所々破綻してしまってる点だ。肝となる、主人公が家出をし東京に来た理由がほぼ不透明で終わること。中学生のヒロインと小学生の弟が都心で暮らしている中で、回りの大人は全くノータッチだったのかという疑問。あの優しい主人公が銃を手にし、打てるほどの凶暴性を秘めてるのかという謎。君の名は。に比べ随所に詰めの甘さを感じたが、そんなことを気ないならないほど素晴らしくしたのは、映画の最終部であり結末である。

2人の愛のためなら世界を犠牲にしてもいいのか、という疑問にこの映画はきっぱりと答える。いい、と。合理的な世界を生きる私たちにとって、Aを助けてBも救うというようなダブルスタンダードは通用しない。そんな時代において私たちが見たかったのは全てを捨ててでも一緒にいたい人と一緒に居るべきという突き抜けた何かだった気がする。そう思った瞬間この映画は過去今までの彼の映画の中でもマスターピースに変わった。

「愛にできるこことはまだあるかい」RADWIMPSのこの歌は少々青臭い。けれど映画を観た後にこの歌詞はすんなりと胸に響く。愛にできることはまだあるか。愛にできることはまだあるよ。学生のころならいざ知らず、社会人になってそんなことは口にできない。けれどこんな不透明な世の中で、確かな生の実感が薄れている現代社会で、それでも生きている理由があるとするならば、世界が形を変えてしまっても、一緒にいたいと思える誰かとの生活なのだろう。この文章もだいぶ青臭いが、そんな風に思えるこの映画は本当に強い物語であり、劇場で誰かと見るべき映画はこんな作品を指すのだろう。

劇場を出ると変わらず雨は降り続いていたけど、どこかにあの二人がいるのかと思うと雨も決して悪くないとそんな風に思った。
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