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天気の子のよーだ育休中のレビュー・感想・評価

天気の子(2019年製作の映画)
5.0
前作に引き続き、どこか切なさを感じさせる写実的な背景美術は圧巻。
街並みの完成度が高く、実名の看板や商品がたくさん登場して(エンドロールでの制作協力企業の多さよ)、自分の知っている東京の自分の知らない所でこんな事が本当に起きてるんじゃないかと一瞬錯覚してしまう。これぞ新海ワールド。

光の表現も素敵。陽菜の祈りで晴れ間が差すシーンは鳥肌。特に神宮外苑花火大会。間接照明→暖かい夕陽→東京の夜景に冠菊の空撮は感動モノ。

ヒロインが不思議な力を持っていて、主人公と惹かれ合うも、いいところでヒロインが儚く消えてしまう。なんとかしようと奔走する主人公。話の構成は前作と似たような感じ。

ただ、今作は主人公は家出少年。ヒロインは親権者不在の未成年。経済的な豊かさは勿論、社会的な立場すら無い。そんな中でも必死に居場所を求める場面は前作にも増して切ない気持ちにさせられる。「これ以上僕たちに何も足さず、僕たちから何も引かないでください。」貧しい中でも吾唯足知。須賀さんから直前「大人になれ」と言われた帆高は、(まだまだ甘ちゃんとはいえ)十分達観していないか。

「世界の形を変えてしまった」物語だと帆高は語る。雨が降りやまない狂った世界で、《天気の巫女=陽菜》を人柱に捧げる事であるべき日常が取り戻される。須賀さんは「人柱一人で狂った天気がもとに戻るなら歓迎だ。」とぼやく。
《狂った天気》と《陽菜》を天秤にかけ、《世界》よりも《個人》を優先した事に負い目を感じていた帆高。自己犠牲で世界を救う王道ファンタジーの逆、エゴで世界をめちゃくちゃにする作品であり、考えさせられる。
昨今の環境問題も人間のエゴで引き起こされている事とも重なり、レインボーブリッジが水没しているシーンはかなり衝撃を受けた。

田端駅の登り坂で帆高が吹っ切れるシーンは爽快。序盤から須賀さんに「主体性がない」と言われて、凪くんにすら「はっきりしない」と言われ。劇中ずーっと悶々としていた帆高がようやく自己肯定に転じる。結果がどうあれ、自分の意思で決断した事を後悔しない事が大事。

登場するキャラクター達がそれぞれにコンプレックスを抱えていて、観れば観るほど新たな発見がありそうな映画。解釈もそうだし、背景・モブキャラなんかも。
前作「君の名は」に登場していたキャラクターが今作にもちょこちょこ顔を出す演出も心にくい。