「もしも自由に魔法が使えたら、あなたは何をしたいですか」
そんな夢のような問いかけから始まる本作は、内気な性格のイアンとちょっとガサツで家族想いなバーリーのコンビによる素晴らしい冒険物語に結実した。
作品内で語られる最も強い魔法とは、24時間だけ亡くなった人を呼び戻す魔法だ。
なんとあのお父さんに会える!
しかし魔法を使いこなすには信じる心が必要だった。
イアンは突然任された使命に戸惑ってしまい魔法は不発に終わる。
足しかない!これでは話せないではないか!
だがバーリーは諦めない。冒険の果てに解決があると確信して突き進む。
どうにも波長の合わない兄弟だが、その旅の行く末やいかに。
そして、その旅の終わりに2人は何を思うのか。
〜以下映画の着地点含む感想〜
文句なしの出来栄えのピクサー映画。
個人的に驚いたのが、蘇りの魔法を中心に据えているが死生観があまり押し出されていない所。生者が死者を追いかける展開のリメンバーミーと大きく違う部分だ。
イアンがこの旅を通して出会った中で一番価値あるものは今ここに生きる自分自身だ。
弱い自分に正面から向き合う事は恐ろしい事だ。だがそれは避けては通れない道でもある。
ではそれは孤独な闘いなのかというと、そうではない。
必要なのは"支えてくれる人を"信じる心なのだ。
バーリーの人生を遊びと考えるおちゃらけさはイアンにとって本当に苛立ちの元だったろう。
内気な人だってたまには怒ってもいいじゃない!
その後に生真面目すぎる自分に気づけるのだから。
今日も自分と向き合いつつ「onward = 一歩前に」進むイアンに心からエールを。
これを宝探しになぞらえて語るピクサーの手腕はもはや職人技。特にラストに向かって見事に糸が織り成されてゆく様は必見。
設定について言えば、魔法と科学を「超自然と現実」という優劣ではなく「内なる精神力と普遍的技術」に分けどちらも役立つ物として描いているのが興味深い。
つまり、魔法を忘れた時代とは生活に明け暮れ活力を失った社会を指すのであり、個人に言い換えれば本当にやりたい事を諦め平凡に甘んじる人生の事だ。
これは全く新しい魔法の捉え方であると思うし、やはりピクサーチームの創造力はいまだ衰えを知らないようだ。
作中にはギャグが満載。足だけのお父さんにもちろんセリフは無いのだが、きちんとそこでも笑いを取ってくるあたりはさすが。
そしてあのシーンにブルースブラザーズの面影を感じて、勝手に喜ぶ私です。分かってくれる人いるかな?