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クーリエ:最高機密の運び屋のRのネタバレレビュー・内容・結末

3.7

このレビューはネタバレを含みます

映画館で。

2021年のイギリスの作品。

監督は「劇場版 嘆きの王冠〜ホロウ・クラウン〜」シリーズのドミニク・クック。

あらすじ

1962年、アメリカとソ連の対立が頂点に達する中、国に背いたGRU(ソ連軍参謀本部情報総局)の高官ペンコフスキー(メラーブ・ニニッゼ「ジュピターズ・ムーン」)と接触するために、CIAとMI6が選んだのは英国人セールスマンのグレヴィル・ウィン(ベネディクト・カンバーバッチ「モーリタニア黒塗りの記録」)だった。ウィンはスパイの経験など一切ないにも関わらず、ペンコフスキーの協力を得て、西側に機密情報を運び続けるが…。

本当は観る予定はなかったんだけど、今週休みが重なって、時間ができたので映画に行きたいなと思い、観てない作品でなんかないかなと思ったら予告で面白そうだったのでこちらをチョイス(公開は9月)。

ジャンルとしては冷戦下を舞台にした「スパイ」ものなんだけど、実話ベースでしかも、カンバーバッチが演じる主人公のグレヴィルはMI6でもCIAでもないセールスマンだというから面白い。

そういえば、カンバーバッチって実話ベースものは多く出てるけど、その中でも実話スパイものに多く出てるイメージ。「裏切りのサーカス」とか「イミテーション・ゲーム」はスパイではないけど、暗号解読とかしてるし、気弱そうだけど、芯が強そうな人柄がそうさせてるのかな。

ということで、一風変わったスパイものではあるんだけど、それこそボンドとかイーサンみたいにドンパチは皆無で、このウィンに課せられたミッションはソ連の高官から機密情報を入手して、KGBにバレずに運ぶこと。

普段から、商談のために行き来している点から不自然ではないということで抜擢されるんだけど、それこそはじめの方は、なんで俺!?ってな具合に単なるセールスマンが表立っては商談、その裏では機密情報を運ぶというリアルスパイ行動をなんとかやり遂げるくだりがスピーディーに描かれる。

その中で、ホテルの部屋を開けている間に物の位置が変わっていたり、ペンコフスキーがKGBに毒を盛られて瀕死になったりと危うい場面はありながらも、なんとか成功を収め続けるグレヴィル。

ただ、その反面、精神的疲労は半端ではなく、家族に当たってしまったり、奥さんのシェイラ(ジェシー・バックレイに浮気を疑われて、冷たくされてしまったり、裏では国のために英雄的行動に協力しているのに…家族にも言えない分、大変だなぁ。

まさに、スパイはつらいよ。

そんな過程を通して、ペンコフスキーとは同じ家族を持つ身として、親交を深めていく。

ペンコフスキー役の人は全然知らなかったんだけど、見た目はなんかアンディ・ガルシアにおっさん度を極端に注入したような、ギャングのボスって言われても通じるような強面なんだけど、実は家族思いで優しい面もあって、だからこそグレヴィルとは通じ合う部分があったのかな。

途中、グレヴィルにゆくゆくは西側に亡命して、家族と余生を過ごしたいという展望を語るシーンがあったりなんかするんだけど…あれ?これは死亡フラグ…?

と思っていると、1962年10月、キューバ危機が勃発。要はソ連がキューバに核ミサイル基地を建設していることが発覚、アメリカのすぐ近くにキューバが位置していることから、米ソ間の緊張状態が高まり、核戦争寸前まで達した出来事なんだけど、ペンコフスキーがギリギリのラインでその情報を西側に渡した…ところまでは良かったんだけど、じゃあもうそろそろ亡命するかという土壇場でそれが立ち消えになってしまう。

その時点でお役御免だったグレヴィルなんだけど、ペンコフスキーの身を案じて、もう一度だけソ連に渡ることを決意、CIAのエミリー(レイチェル・ブロズナハン「アイム・ユア・ウーマン」)と共にペンコフスキーとその一家を亡命させようとするんだけど、すんでのところでKGBにバレてペンコフスキー共々収容所に収監されてしまう…ってえぇ、そういう展開かよー。

なんか、こういう亡命ものって、俺自身あんまり観てないんだけど、Netflixの「紅海リゾート」とかベンアフ主演の「アルゴ」とかギリギリで脱出…みたいな、良かったねー的な結末の作品ばっか観てきたので、この失敗に終わるって展開が意外だった。

しかも、グレヴィルは飛行場で捕らえられて、すぐさま収容所に直行、髪を全剃りさせられて、全裸に剥かれて、寝床もトイレもろくな状態ではない牢獄に捕らえられる急転直下っぷりに愕然としてしまう。あぁ、可愛そう…。

エミリーとかはなんとか解放のために奔走してくれてはいるんだけど、ソ連のスパイとの人質交換を交渉するとイコールグレヴィルが重要人物だということがソ連側にバレてしまってなかなか思うようにいかない。

その間に時は経ち、シェイラがなんとか面会に行く頃には獄中で病気を患ってしまったグレヴィルはガリガリに痩せ細った、変わり果てた姿になってしまう。

多分、カンバーバッチ自身、役のために体重を絞ったのであろう、ただでさえ、ほっそりした体型なのに終盤シャワーシーンで露わになる全裸の後ろ姿もガリッガリになってて、本当に役者ってすごいなぁ。

ただ、その中でシェイラからキューバ危機を脱したことを知らされたグレヴィル。

精魂尽き果てた状態で項垂れながら、KGBとの取り調べ中、ようやく再会できたペンコフスキーに対して、多分会うのはこれで最後であろう彼に対して「君はよくやった、君が起こした行動によって、世界に平和がもたらされたんだ!」と最後のその瞬間まで力を振り絞って伝えようとするグレヴィルの姿にグッとくる。

ラスト、そんなペンコフスキーの助力とCIAとの人質交換によって、解放されたグレヴィル。家に帰ってようやく家族の元に帰ってこれたと安堵する一方、思い出されるのはペンコフスキーとの楽しい思い出。

言ってしまえば、共犯関係ではあったんだろうけど、グレヴィルにとってはかけがえのない友人だったのかもしれないペンコフスキーの「我々のような平凡な人間から世界は変わるのかもしれない」というセリフは、まさにその通り、彼らの勇気ある行動のおかげで核戦争を防ぐことができたという事実がわかってくると静かな感動が押し寄せてくる。

絶賛公開中の「ノー・タイム・トゥ・ダイ」のボンドなど映画的なスパイものも良いけど、反対にこういう市井の人々の中にも世界を救う存在はいたってことがわかる良い作品でした。
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