匂い、肌触り、空気、音、全ての感覚がリアルに伝わってくる。
波の音にシンクするセメントが流し込まれる映像が素晴らしかった。
モノローグで登場する「僕」の記憶は、かつての破壊によって文字通り壊され、破壊された建造物のセメントの匂いと共にトラウマとして上書きされた。そこに建設される新たな建造物のセメントは、再び「僕」の記憶を封じ込めるように塗り固め、記憶の傷痕も全てまっさらにして無と化してしまう。
それ故、彼ら労働者のあの目だったのだろう。
全ての記憶が交錯し、セメントと共にスパイラルに混ぜ合わされ、そして海の底へ落ちて行きたいと言った「僕」の心情は、決して自分には理解することはできないが、少しだけ近づくことができたような気がした。