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アスのRのネタバレレビュー・内容・結末

アス(2019年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

自宅で。

2019年のアメリカ映画。

監督は「ゲット・アウト」のジョーダン・ピール。

あらすじ

アデレード(ルピタ・ニョンゴ「スターウォーズ/スカイウォーカーの夜明け」)とその家族はサンタクルーズにあるビーチハウスに休暇に訪れるが、そこで自分たちに瓜二つの家族に襲われてしまう。

「ゲット・アウト」で鮮烈なデビューを果たしたジョーダン・ピール監督の長編2作目ということで、ようやくTSUTAYAレンタルで鑑賞。

個人的には「ゲット・アウト」の方が面白かったけど、それでも全然面白かったです。

パッケージや予告から何となく嫌な感じだったんだけど、観てみるとのっけからすでに不穏。幼少時のアデレードが家族との旅行先のミラーハウスの出し物小屋でそこで初めて自分と瓜二つの少女と出会うんだけど、薄暗いミラーハウスを彷徨って、さぁ遂に対面というところで、バァッ!と出そうなところを後ろ姿のショットでぶつ切るって余計怖いわ!!

話は変わって現代、幼少時の件から失語症を患ってしまったアデレードだったが、それも克服し、現代では夫ゲイヴ(ウィンストン・デューク「スペンサー・コンフィデンシャル」)と2人の子どもと仲睦まじく暮らしていた。そんな家族がよりにもよってあのミラーハウスの小屋があるビーチに休暇で旅行に出かけるわけなんだけど、日中は忌まわしい記憶を思い出してか、どこか怯えているアデレード、そんな奥さんを宥めつつ休暇を楽しむゲイヴ、イマドキな女の子ゾーラ(シャハディ・ライト・ジョセフ「ライオン・キング」)、ちょっと変わったジェイソン(エヴァン・アレックス)のキャラクターそれぞれを掘り下げつつ、何のことはない家族の旅情が描かれる。

ただ、今思い返してみるとこの場面くらいからちょっとした「不穏さ」みたいなものは所々あったんだなぁ、浮浪者が搬送されるところとか。

そんなバカンスの夜、遂に現れるもう一つの家族=「テザード」、面白いのは姿形は瓜二つなのに、もう1人のゲイヴはまるで獣だし、もう1人のジェイソンは顔にひどい火傷を負っていたりとキャラクターがそれぞれ完全にダークサイドを地でいくキャラクターとなっているところ。

中でも一際目立つのが今作の主人公アデレードと対となるもう1人のアデレード=レッド。

ここで演じるルピタ・ニョンゴの演技が際立つ。元々「ブラックパンサー」でのヒロイン役から美人だなぁと思っていたんだけど、今作のどこか過去に怯えた暗い側面を持っているアデレード役でもやはり目鼻立ちがはっきりしているからかとっても綺麗。ただし、それをもう1人のレッド役になると一変。インパクトのあるパッケージからも分かる通り、どこか憎しみの炎も仄暗く燃やした瞳を見開き、どこまでも不気味に家族に忍び寄る様は迫力満点だった。

そんなウィルソン一家とテザードたちによる恐怖の一夜が幕を開ける。

ただ、意外だったのが、テザードたちはてっきりウィルソン一家たちだけかと思いきや、中盤では一緒に休暇を楽しむ裕福な一家との室内バトルが描かれたり、終盤にかけてはどうやらこれは世界規模の大きな計画の一端であることがわかり、なんだこれめちゃくちゃ壮大な話なんだなと思った。

ただ、そうなると肝となるのがこの「テザード」の正体…なんだけど、ここまで大規模な侵略となると、その月並みな設定もちょっと無理があるんじゃないかなーと思った。ミラーハウスの裏側の世界っつってもあんだけの人数どこに潜伏させるんだとか、そもそも作った人たちはどこ行っちゃったんだとか。まぁ裏側の世界規模では現実世界の人とリンクした行動するんだけど、それが完全にエアというかどう見ても狂人的な行動に移って逆に禍々しかったりしたのは興味深かったけど。

それでも、そんなノイズなんて忘れられるくらい物語としては面白い。この手の登場人物にしては珍しく事態の飲み込みがやけに早いウィルソン一家は上述のタイラー一家のテザードとの戦いでも早々に健闘して打ち負かしちゃうし、子どもたちも一端の戦闘員さながらにぶち殺しにかかるのがすごい笑。家族間のやり取りのやけに冷静なところが逆に面白く嗜虐的でもあって、ここら辺は元々はコメディアンであるジョーダン・ピールの本領発揮的な側面でもあるのかな。

そんな感じで進んでいって面白いなーと思っていると待ち受ける主人公アデレードともう1人の「US」、レッドとの対峙で明らかになる、コトの発端の「真実」に驚愕。

えー、マジかよ…。

だとしたら、だとしたらだよ。レッドの歩んだ人生ってどれだけ不幸なんだよ。それは、それは人格も歪むわ。そう考えると登場時、暖炉の側で切切と語るレッドの人生=本来なら「お前」が歩むはずだった人生と置き換えてみるともはや怨念的な行動に感じてしまうのも哀しい。

そして、そんな真実がわかってしまった時、これからアデレードとその家族はどういう道を歩むのだろう。

アデレードが幼少時持っていたTシャツ「ハンズアクロスアメリカ(15分に渡りアメリカのホームレスの飢えを救済するために手を繋ぐ=人間の鎖で訴えかけるイベント」を模した、山々を超えるほどのテザードたちのデモが個人的にはとっても皮肉的というか…に感じてしまった。

事態の深刻さと相まって、一体どれほどの人たちがその真意に気付くのだろう、そしてそのためにテザードたちの自由が保障される日が来るのだろうか。

現実世界では今最もあちらで関心が高まっているのがミネアポリスの白人警官による黒人男性暴行殺人事件だと思うけど、そのための抗議活動がメディアを問わず様々な形で展開しているわけなんだけど、このラストシーンを見ると一体その活動そのものがどれだけの効力を発揮するのか…そんなことをリンクして考えるとなんとなく物悲しくも感じてしまう作品だった。
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