R

碁盤斬りのRのネタバレレビュー・内容・結末

碁盤斬り(2024年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

映画館で。

2024年の日本の作品。

監督は「狐狼の血」シリーズの白石和彌。

あらすじ

浪人、柳田格之進(草彅剛「サバカン SABAKAN」)は身に覚えのない罪を着せられた上に母を亡くし、故郷を追われて、娘の絹(清原果耶「青春18×2 君へと続く道」)と2人、貧乏長屋で暮らしていた。そんなある日、悲劇の冤罪事件の真相を知らされた格之進と絹は自らの誇りのため、復讐を決意する!

「狐狼の血」の白石和彌監督の最新作にして、元SMAPの草彅君の久しぶりの主演作ということで珍しいタッグだなぁと思い、公開前から気になっており、早速鑑賞。

お話はあらすじの通り、白石和彌監督初の時代劇ということで、さてどんなもんかと思って観始めたんだけど、何つーか心地良い!!元々時代劇自体はあんまり観なくて、多分前に観たのが阪本順治監督の昨年の作品「せかいのおきく」以来なんだけど、あちらは全編そのほとんどが白黒という時代劇の雰囲気とマッチした絵作りだったのに対して、本作は色彩を活かした絵作りと季節を自然に感じ取ることが音の使い方(特に風鈴や祭囃子など夏の描写が良かった!)など「今の時代劇」感がありつつ、ちゃんと当時の風情みたいなものも感じ取ることができて和む。

あと、建物の描写も良かったなぁ。格之進たちが住む貧乏長屋の貧しくも情緒溢るる感じや源兵衛(國村隼「陰陽師0」)が営む「萬屋」のTHE日本家屋、それと吉原の華やかさ、そして宿敵柴田兵庫(斎藤工「スイート・マイホーム」)との最終局面「囲碁の会」が執り行われる長兵衛(市村正親「そして、バトンは渡された」)の屋敷内とまさに最終対決の斬り合いにうってつけの日本庭園、どの場所もシーンを盛り立てるために実に効果的に使われていて良かった。

で、そんな本作の主人公はご存知、元SMAPの草彅剛。奇しくも劇場で観ていた前作「サバカン」から約2年という久しぶりの主演作ながら、やっぱこの人好きだなぁ…。ちょんまげ姿だからこそ、より際立つ特徴的な顔つき(歳を重ねたことでより精悍な感じを受ける!)と優しげでもあり、時に冷酷さすら受ける表情が感じ取りづらい目つきと「優男」のイメージのある草彅君のイメージからかけ離れた格之進という役を実に体現している。

加えて、その碁の打ち方からも伝わる内面の愚直さよ。特に真面目だからこそ後半にかける武士としての気位の高さを顕にする感じでとか抜群だった。

あとはその娘、お絹役の清原果耶!近年メキメキと若手女優の中でも頭角を表し、朝ドラヒロインも待ったなしの要注目の女優さんなんだけど、そのフレッシュさもさることながら、この時代の女性だからこそ出てくる「艶やかさ!特に弥吉(中川大志「スクロール」)と祭りの夜に再会した後、別れを告げ、橋を渡るお絹をバックに吉原の燈がボヤー…と灯るシーンはその艶やかさが一段と映えて、あぁ好きだったあの子が吉原に行ってしまうという不吉さにも似た焦燥感を際立たせていて印象的。

この2人を軸に序盤はお話が進んでいくんだけど、その中で注目すべきは、やはりキーとなる「碁の描写」。

もちろん俺自身、碁なんてやったこともないし、周りでやっていた人もいないもんだから、あのオセロみたいな白黒のやつでしょ?くらいの認識だったんだけど、マス目が全面に張り巡らされた木製の碁盤に「タァン!」と碁を打つ音の心地よさがまずあって、その中で長考に長考を重ねた上での盤上での心理戦描写がまた良い。特に序盤の碁会での格之進と源兵衛との一局であの触り心地の良さそうな碁石をジャラジャラ言わせて余裕綽々だった源兵衛が格之進の攻めの一手によって窮地に陥り、その手を止める「音演出」なんかは碁よりも知名度が高い将棋にはない感じで良かった。

また、萬屋源兵衛を演じた國村隼が良くて、今作ではそのコワモテな顔を活かして初めは「ドケチの源兵衛」と近所の子どもに揶揄されるくらい商いだけでなく、ドラマに出てくる姑みたいに小さな埃すら掃除させる、性悪たぬき親父だったんだけど、格之進との出会いを通して、段々と改心していき、やがては人を思いやる心すら生まれて「仏の源兵衛」なんて呼ばれるくらいの好々爺になっていく感じがやはり日本だけでなく、海外でも近年その活躍が目覚ましい演技派なだけあって、実に味わい深い。

で、そんな源兵衛は萬屋でのトラブルを偶然にも格之進に助けてもらったことで一旦は後で恩を着せて金をせびるつもりなんじゃないかと勘繰るんだけど、愚直な格之進と正々堂々とした碁の打ち方に惚れ、来る日も来る日も碁を打つ日々を重ねる。ここら辺はマジで朝から晩まで季節問わず碁ばっか打ってて、草彅くんと國村隼という歳は離れていながらも共通の趣味を持つ「親友」感があってほっこりする。

ただ、そんな平穏な日々は長くは続かない。十五夜の日、源兵衛の屋敷に呼ばれ、細やかな宴をしながら、その日は源兵衛がいつか巡り合った暁にはこの盤で打つと大切にとっておいた特別な盤で碁を打つ格之進の元にかつての同僚、梶木左門(奥野瑛太「湖の女たち」)がある知らせを持ってやってくる。

その知らせとはかつて藩主の大切な物を盗んだという謂れのない罪を着せられ、藩を追われることになった格之進の濡れ衣が、同じ藩の柴田兵庫の仕業だということがわかったこと、加えてその兵庫が格之進の妻でお絹の母親を襲い、それを苦に奥さんが自殺してしまったことまでわかってしまい、激昂する格之進。

で、格之進は憎き兵庫を仇討ちするという展開になっていくんだけど、なるほど話は違えど同じ元SMAPのキムタク主演の「武士の一分」みたいな感じになっていくのかと思ったら、もちろんそっちも描かれるんだけど、それと同時に「あるトラブル」が絶妙に絡んでくるのがまた面白い。

それがその十五夜の宴での格之進と源兵衛の碁の一局の最中に、お金を返しにきたお客から返済を受けた「五十両」を源兵衛が紛失してしまったという件。

どこを探しても見つからない上に当の源兵衛も確かに受け取り、部屋に置いていったということでそうなると考えられるのは格之進が盗んだのでは…ということになるんだけど、もちろん実直な格之進が盗んだわけでもなく、後々、源兵衛自身も、もう心を入れ替えていることに加えて、懇意にしている格之進が盗んだとしてもよほどの事情があるんだろうと喜んで五十両をあげてもいいという心持ちだったことがわかるんだけど、格之進が盗んだと考えが及んだ番頭の徳次郎(音尾琢磨「映画 マイホームヒーロー」)の言いつけで弥吉が格之進に嫌疑をかけてしまったから事態がこんがらがっていく。

現代マインドの俺からすると、そんなん実際に盗んでないんだからしらばっくれりゃよくね?と思うんだけど、この些細な誤解によって、いざ、仇討ちへ!と旅支度に身を包み殺気ムンムンで赴こうとする格之進に「五十両盗んだのでは…」と恐る恐る弥吉が訪ねたことで「ふざけるな!」と激昂して、完全に梯子を外され、遂には濡れ衣であっても武士の恥だ!と切腹しようとするし、父親の嫌疑を晴らすために五十両を担保に小泉今日子(「とりつくしま」)演じる吉原の女将お庚が経営する店にお絹が身売りすることになったりと、なるほどここで時代劇ならではの「武士としての生き様」がある意味でマイナス要因となった事態に発展していくわけか。

しかも、その諍いが原因で仕舞いには碁友であっても謂れのない罪を着せられ、そのせいで我が子すら身売りする事態になったことが許せない!と怒り心頭の格之進が弥吉に「もし(五十両が)見つかったら、弥吉と(その要因となった)そもそもの源兵衛の首を貰い受けるぞ」と男と男の約束を取り付けてしまう。ひぇ〜、怖い。

もう引くには引けなくなった弥吉もビビり散らかしながら承諾するんだけど、当の源兵衛は自分が知らないうちに自らの首が飛ばされようとしていることを知らないわけだからね、マジで笑える。

で、そんなんがありつつ、お絹も吉原に身売りされたことで(と言っても格之進親子を気に入っているお庚は年が明けるまでは店には出さないことを格之進に約束)、守るものがなくなった格之進は家財一式を売り払い、遂に道中再会した左門と共に兵庫仇討ちのたびに出向く。

ぶっちゃけ主軸はこの仇討ちパートよりも五十両ゴタゴタパートの方に比重が置かれているので(このストーリーラインも妙だよなぁw)、碁の会を回ってくうちに長兵衛が開く大きな碁の会で遂に仇討ち兵庫を見つけるまで、格之進と左門が髭ボーボーになるという時系列の経過こそ窺わせるものの割とあっさりいっちゃうんだけど、ダラダラ描くのではなく、サクッとそこまでいっちゃうのもまた大胆な作りで観ていて飽きない。

で、そんな兵庫とのシーンもまた格別。碁の腕も藩随一だった兵庫との一局はルールがわからない俺ら観客でも戦況がわかるように、まるでNHKの囲碁の解説みたいな3人のオーディエンスが「ここはこうで…」と解説してくれるのが、なんか無駄に新設設計でシーンのシリアスさに反して笑えるんだけど、その後に遂に刃を向ける兵庫とのシーンは今までの風情のある時代劇描写とは打って変わってTHE剣戟アクションを堪能できる!過去の格之進とのいざこざで足を悪くした兵庫は杖をついているんだけど、実はその杖は仕込み刀であり、決着は碁の勝負でとなり、格之進との日が暮れてもケリがつかない長期戦となる対局中、「水をくれ」と長兵衛に頼み、水を飲んだ次の瞬間、格之進の喉元をカッ捌こうと仕込み杖からズバー!と斬りかかる兵庫!!そこから逃げようとする格之進を追撃しようと更に斬りかかろうとする兵庫を捕らえようと長兵衛の家来たちが応戦してくるんだけど、広い屋敷内でカメラの横スクロールでその斬り合いを見せる構図は白石監督らしいスタイリッシュな構図だったし、その後の屋敷の庭を舞台にした最終対決では左門と長兵衛のアシストもあり、遂に刀を手にした格之進の一太刀で見事、スパッと片腕を切り落とされた兵庫が致命傷を負い、決着するまでの流れがここだけ夜の闇とその闇に照らされる庭園のショットの効果的な使い方(カメラの明度も多分意図的に下げてる)もあり、見事。池に兵庫の片腕が沈み、そこから滲み出る血によって池が赤く染まるショットも決着感が現れていてかっこよかったなぁ。

ただ、仇討ちには成功したものの、時すでに遅し、お絹にその知らせだけでも伝えようと左門と共に帰路に急ぐ格之進をよそに吉原の門も閉まってしまう。また、仇討ちが終わったと同時に盗まれたと思ってた五十両も無事見つかってしまい、弥吉も急いで吉原に向かうもそこには間に合わなかったことでまたも怒り心頭の格之進。怖っ!

で、結局「約束は覚えているな!」みたいになって、何にも知らない源兵衛の元に向かうんだけど(そんときのポカーン顔の國村隼の顔がまた格別!)、弥吉から話を聞き、事態を把握した源兵衛はせめてこれからの世代の弥吉だけでも助けてくれと懇願、弥吉は弥吉でこれは自分のせいで両親を亡くした後、ここまで育て上げてくれた源兵衛を助けてくれと懇願とお互いを庇い合う一方、そんな2人を前にしてもブチギレ状態で切る気満々の格之進といや、これどう落とすの?と思ったら、遂には打ち首を覚悟する2人を斬る…のではなく、源兵衛が大切にしていた特別な碁盤を一刀両断!!

なるほど、だからタイトルが「碁盤斬り」なのぉ!?見事すぎるタイトル回収で感心してしまったんだけど、そもそも普通に仇討ち話にすれば良いものをここを最後に持ってきたのにはわけがあって、実は本作元は脚本を手がけた加藤正人による小説が原作なんだけど、元々は「柳田格之進」という落語が元になっている。

その内容というのが、まさに五十両を盗んだという嫌疑を番頭にかけられた格之進がその嫌疑が誤解だったということがわかり、番頭の代わりに碁盤を斬るというまさに本作の終盤そのまんまなお話。

もちろん、監督としては格之進と兵庫との剣戟も描きたかったんだろうけど、源兵衛との碁を通じて巡り合えた友情こそ、武士としての本分を超えた格之進にとってかけがえのない大切なものだったということなんだな。

ただ、シーンとしては格之進の優しさが窺える以上に見るからに斬るのが困難そうな碁盤がパカっと一刀両断されてるショットの凄まじさが格之進の武士としての腕の確かさがわかって、一歩間違えてたら2人もこうなってたんだなぁ…と思うとやっぱ怖えー笑(その前にしっかり兵庫の打ち首を印象づかせていただけに余計にw)。

ラストはなんだかんだ元鞘に収まり、晴れて両思いだったお絹と弥吉が夫婦となってお祝いムードで締めくくろうとする中、格之進と共に藩を追われて、爪に火をともす日々を送っているというかつての仲間たちのために金を工面して1人江戸を後にする格之進のシーンで終わるエンドロールもかっこよかった。

というわけで白石和彌監督×草彅剛の初タッグとなる時代劇という新鮮味もありながら、時代劇特有の武士としての誇り高さが最後までよく伝わってくる作品でした、面白かったです!
R

R