しゅんまつもと

宮本から君へのしゅんまつもとのレビュー・感想・評価

宮本から君へ(2019年製作の映画)
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はあ、さてさて。困ってしまった。自分はこの映画のことを好きなのか嫌いなのか。今の時点ではちょうど半分ずつくらいである。自分の中での整理のために書いてみる。

この物語は圧倒的に間違ってると、正しくないと思う。ダサいし、古いし、何よりやっぱり間違ってる。何が?それはやっぱり劇中で起こるある悲劇の扱いだ。何かのレビューでも書いた気がするけど、レイプを描写するのが物語を展開するためだけであってはならないとずっと思ってるし、それ自体が記号的になってやしないか、形骸化してないかと思ってしまう。もちろんそうなっていないものもあるとは思う。原作がそうだから、というのは置いておいたとして、本当にこれを描かなければ、言ってしまえば中野靖子という1人の人間を辱めなければこの後の展開が描けなかったのか、と考えてしまうと自分にはそうは思えない。そして、理不尽で狡猾なマッチョイズムに対してマッチョイズムで立ち向かっていくという、それが宮本の言ってしまえばアイデンティティなのだとしてもそんなやり方は間違ってると、馬鹿だと、アホだと自分は思ってしまう。ふざけんなと。

ただ。ただ、こんなことだけじゃなく、いろんな腐ったことが起きてる現実で生きていくには、もう馬鹿になるしかないんじゃないか?とも思える。宮本みたいに馬鹿みたいになることが一番正しいじゃないか?とも思えてしまう。間違い続けることが正しいことだと、何より美しいことだとエピローグで思ってしまったのも事実。だからとても困っている。

この世界の片隅に確かにある幸福。汚い夜の新宿でのキス。人を殺そうとした包丁で南瓜を切るということ。口から噴き出すごはん粒が掌に付くということ。降り出した雪を眺めて並んで歩くこと。悔しいかな、やっぱり現実はまだこの映画を古くさいとは言い切れないらしい。