InSitu

アブラハム渓谷のInSituのレビュー・感想・評価

アブラハム渓谷(1993年製作の映画)
4.7
エンドロールの汽笛の音で昇天。フィールドレコーディングス的なジャンクノイズ。月光、月の光のあざとい反復をも全て無かったことにするあの音。小説では味わうことは出来ないだろう。物語の着地からメタ要素から何から何まで完璧過ぎて、この世の物とはとても思えない。

この映画におけるメタ要素とは、原作"ボヴァリー夫人"の存在を登場人物たちが認知していたり、序盤のディナーのシーンにて、敬虔な叔母が何故かカメラ目線でそのカメラに向かって祈りを捧げ、そしてその行為をエマが目撃し、軽いショックを受けるといった描写などのことであるが、このメタ描写はタル・ベーラやアピチャポンに通ずるなと思ったりして、さすれば私の心を掴んで離さないシークエンスになってしまうのです。

そしてオレンジ畑のシーンこそ、正にこの映画を象徴するような神秘的で、高尚且つ破壊的なシーンでしょう。まるで宙に浮いているかのようにエマがオレンジ畑を歩く(歩いているようにはとても見えない)。カメラはエマのバストショットだから足も見えず、そしてこのシーンにて初めて(と言って良い?)カメラは後方へ動く。積み上げてきた調律の破壊。それもかく上品に。最高のカタルシスではないですか。

他にも洗濯女の存在とか服装についてとか書きたいけど、これ以上書くと気持ち悪いから止めておく。
InSitu

InSitu