アブラハム渓谷の作品情報・感想・評価

「アブラハム渓谷」に投稿された感想・評価

hardeight

hardeightの感想・評価

4.5
 ドウロ河流域とそこに広がるブドウ畑の息をのむような美しい望遠ショットと対照的な、エマの輝くような濃密な艶かしさが画面にみなぎり、男たちを色濃く惑わせながらその欲望を掻き立てていく。
 饒舌に語る男の話を聴くエマの粒らな瞳は胸に抱える猫の目と二重化して、苛立つ夫が猫を投げつける荒唐無稽な振る舞いを召喚し、エマが足を踏み外して呆気なく終わる唯物的なショットに私たちは感嘆する!
原作『ボヴァリー夫人』は未読ですので、錯誤が有るかも知れませんが。
オリヴェイラ作品の中でも、そのナレーションの多さから特異な立ち位置の作品です。
映画で読書するとこんな感じになるのでしょうが、主演のレオノール・シルヴェイラやこれまた常連のルイス・ミゲル・シントラの演技、また余白の多い長回しの効果もあり、没入感が損なわれることは有りませんでした。

物語は自分の美貌を知悉し、でも奉仕する心持ちが出来ず退廃的な生活を送る女性の孤独な足跡を描いています。
他の方も言われている通り、とても平坦で長尺な事もあり、私も失敗したかと思いましたが…、オレンジの下を潜り進むショットが余りにも叙情的でした。

物語云々というよりも、レオノール・シルヴェイラの演技と全編を繰り返し流れる様々な『月の光』を評価して、この点数です。
すごいお高くとまっている作品だけど、平たく言うと欲求不満の美人妻が浮気しまくる。医者の夫も看護婦と情事を重ねる。それでいて濡れ場が一切なく、3時間続く映画です。そんなん何がおもろいねんというわけです。
それでもパーティーから帰ってきた後の薄暗がりの中のシーンえもいなーとか、ドビュッシーいいなードナウ川流域きれいだなーとか思って見てたら、終盤衝撃的な出来事が起こったんですよ。奥さんが撫でてた猫を夫がうるせーと言ってほっぽり投げたんですよ。この瞬間もう気取るのやめて正直に書こうと思いましたね。
ただでさえ3時間超えるんですよ。だらだらだらだらナレーションが続くんですよ。それなのにわざわざ猫を投げるシーンを入れる必要性あります?そんな演出いります?いや原作のボバリー夫人がどうなのかは知りませんよ。猫は奥さんが昔から撫でてたからとかなんかしらんけど、それを踏まえてですよ。
誰が何と言おうと、どんな名作だろうと、猫をぞんざいに扱う映画を私は認めない。
全ての男を虜にしてしまう女の退廃的な人生。ナレーションが常にあって、他のオリヴェイラ作品と比べるとそんなに出来がいいわけじゃないような気がするのは私だけ?とは言え、レオノールシルヴェイラの魅力がめちゃくちゃ素晴らしかった。こりゃ人生めちゃめちゃになっちまうわ。
カス

カスの感想・評価

3.0
オリヴェイラお得意の美人映画。
とにかく美人がやりまくるのを美しく撮ってみましたみたいな映画。
娘の意中のG線上のマリアを弾く青年ともやっちゃう節度のなさにはビックリ。
死に方も笑っちゃうような死に方だし多分美人を撮りたかっただけだと思う。
あとかなり薄い内容の映画なのに長い。
1時間半でまとめられたと思う。
白

白の感想・評価

5.0
すべてのゆかしい佇まいは、儚しと振り返る暇もなく、やがて消え、やがて失われる。あまりにあらわな風景の中で。過剰に豊かな音楽の中で。
しかし別れのない日など一日とてないのだ。雲を通ってきた明るさが、もう空へはかえってゆかないように。鳴り止まない音楽などないように。この映画と私たちのように。
或いは罪のように、それは帰るところがない。

アブラハム渓谷、永遠の断片
失われてしまった風景のために
Jeffrey

Jeffreyの感想・評価

3.5
「アブラハム渓谷」

冒頭、誰もが魅了される女、エマ。富裕な医師カルロス、結婚、自然の中の不自由のない生活、夫婦生活、抵抗と奔放な遍歴、葡萄摘み、ベッドの上でバイオリン。今、初秋のラメゴ聖母祭で出逢う少女の話が始まる…本作はポルトガルの巨匠マノエル・デ・オリヴェイラが1993年カンヌ国際映画祭監督週間25周年記念特別招待作品として出品されたフロベールの名作小説の「ボヴァリー夫人」を堪能的にした作風で、同じ年の東京国際映画祭では最優秀芸術貢献賞を受賞している。この度、DVDにて初見したが秀作だった。しかし3時間超えは堪える…。


確か、22歳で初めて監督した映画「ドウロ河」は、本作の舞台になっている。やはり思い出深い土地なのだろうか…。
この作品は風光明媚なポルトガルを舞台にしている分、ワンショットが美しすぎる。


本作は、冒頭から渓谷の描写で始まる。そして男がナレーションとしてこの地を説明する。続いて、車窓の窓から写し出される古民家の画、列車の走る音、只管変らぬパイヴァ川の美しい風景。さて、物語はポルトのドウロ河流域のアブラハム渓谷の農園を営む医者カルロスが聖母祭の日に父に連れられた14歳の少女エマに出会う場面から始まる。彼は少女の美しさに魅了される。そしてその少女は片足を引きずっている。だが、美しく成長し次第に男たちを惑わすような資質を持ち始める。そして様々な出来事が起こり、カルロスと結婚する。だが、愛のない結婚と孤独が次第に肉体関係と変わる…と簡単に説明するとこんな感じで、とにかく風光明媚な自然豊かな風景がフレーム内に収まる映画で、全編通してナレーションの声を導入した固定画面のカットバックを主としている。更に一つのシーンの動きの連続性を確実に維持した構成で、彼の集大成でも良いくらいの作品だ。



また、女性たちが見せるエロスが官能的な描写を映し出し、それと打って変わって美しい風景が挟まれるような形で描き出されていく。この映画はひたすら男性のナレーションで主人公のエマを語るのだが、残念ながらセックスシーンなどそういった演出はなくて、エロチシズムを見せている。そして色鮮やかな花や樹影の美しさには息を飲む。そして何よりもこの作品に出演している女性たちが全員特徴的で、またそれぞれみんなに魅力を与え、アグレッシブルに対応させている。

それとは対照的に男たちはダメメンズになっている。そこがまた滑稽で笑えてしまう。そして魅力的なベートーベンやシューマンらの作曲家が月の光の曲と名付けたピアノ曲を集めて使用した美しいシーンは印象的に残る。

そして、ラストの汽笛…。

ポルトガルの伝統的な地域名であるエストレマドゥーラ地方の語源となった河川は彼にとっては誰よりも主役であり、歴史を語る人物なのである…。




余談だが、この作品が日本初の彼のロードショー作品となっているそうだ。この作品189分版のDVDを見たがどうやら後に作られた203分のバージョンも存在するらしい。
Qbrick

Qbrickの感想・評価

5.0
オレンジ畑、それまでフィックスで撮られていたレオノール・シルヴェイラの歩みを揺れのないスムーズなトラックバックで捉えたショット。固有性と世界の動的なカップリング、完璧な演出と撮影。素晴らしいラストシーンです。
幼少期と成人後の役者が助け合ってるようにしか見えず堪らなかった
impre

impreの感想・評価

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14歳のエマがよそ行きの白いドレスを着ているシーンがいい。双子の金持ちおばあさんに会いに行って、色々嫌がらせされた後に父親がネックレスをプレゼントしてくれる。そのネックレスを家の近くのぶどう園で眺めてたら、そこで働く少年たちにじろじろ見られる。官能性にあふれるシークエンス。
ヴェスヴィオ園でそこの若い執事を誘ってボートに乗るシーンも凄い。ボートから降りて2人で屋敷に戻る時のロングショットはこの世のものとは思えない。
そして何よりも、2人の人間が見つめ合うのを正面から切り返すシークエンスがいい。映画的としか言えない。猫を抱えたエマの姿の美しさ。
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