ペジオ

戦場でワルツをのペジオのレビュー・感想・評価

戦場でワルツを(2008年製作の映画)
4.5
「僕の話を信じ過ぎるな」と言う貴方を僕は信用する

当事者たちの「インタビュー」で構成された、オーソドックスなドキュメンタリーのスタイル
違うのは、人は「事実」としてではなく「記憶」として出来事を認識している…という「事実」に「自覚的」であるということ
全ての人間は何かを語る時、否応なく「信頼できない語り手」になるのだ
「実話を基にしたフィクション」ですら「実写」であれば、観客が無邪気に「リアル」として捉えてしまいがちな現状に、繊細且つ大胆に切り込んだ映画かもしれない
少しずつ取り戻される監督自身の「記憶」が「映画的」に描かれてしまうのは、事実に対する不敬の意ではなく、「そうとしか語ることができない」という自身の限界に対する真摯な姿勢から来たのだろう(「赤いベンツ」の件なんか正に「記憶」の象徴に思える。まさかあのポルノが指令の役割をしていたわけはあるまい。スパイ映画じゃないんだから。)
映画内の「現在」であるインタビューシーンも観客の我々の元に届くときには「過去」になる…だとすればココもアニメーションで描いたのは正解だと思う(全ての過去は等価である。監督の主観がバリバリ入った演出もこだわりを感じる。)

詰まるところラストの「まごう事無き事実」を除いて全てが「信頼できない」
勿論題材の痛ましさや重要性からも、それが語られるべき出来事であることに異存は無いが、やはり「どう語るか?」についてのメタ的な映画だとは思う(極端に言うと「監督自身のレバノン内戦の感想文」である。)
だから、ラストの衝撃を引き立たせる為のアニメーションという手法…という意見には少し異を唱えたい(その効果は否定しないが。)
アニメーションという一番有効な手法を選んだ様に、題材を伝えるのに一番有効な映像が残っていたのだからそれを使っただけ…だと思う

単純に虚実が入り交じった映像は美しい
映画において「馬の眼」にはやはり何かある
ペジオ

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