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荒野の抱擁
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『荒野の抱擁』に投稿された感想・評価

26-49。YT。イタリア語版。デ・サンティス祭り。デビュー作。これはすごい。DVDは廃盤のようだしブルーレイは見当たらないけれど、めちゃくちゃ面白い。高画質で見たい傑作。

ジュゼッペ・デ・サンティスという人は、ローマ大学で哲学を学びながら文学活動をして、やがて雑誌『チネマ』に記事を書くようになり、ヴィスコンティのデビュー作『郵便配達は2度ベルを鳴らす』(1943)に脚本で参加し、撮影現場にも立ち会って、ヴィスコンティのルノアール仕込みの撮影方法(ドリーやクレーンなど)を学んだという。

冒頭のショットからすごい。オープニングクレジットで映し出されるのはラヴェンナの船渠(ドック)なのだろう。次にカメラが捉えるのは、ミケーレ(マッシモ・ジロッティ)とジョヴァンナ(カルラ・デル・ポッジョ)が抱き合って接吻するシーン。やがてカメラがクレーンで迫り上がると、二人が乗っているのがトラックの荷台。そのトラックは停泊する船の横を走り出したかと思うと、黒煙を上げて近づいてくる機関車と交錯しながらすれ違いながら遠ざかってゆく。なんと見事なショット。撮影は1947年の2月だというから、終戦と解放から2年ばかり。荷台でキスをするふたりを、港の男たちが話し立てる。「しっかり抱いてないと逃げちゃうぜ」「うまいか、ケーキは?」「朝からお熱いことだ」。

実はふたりは結婚したばかり。これから仕事場の農業協同組合に向かう。運転手はふたりの知り合いで、組合に政府の補助金を運ぶ会計士を乗せている。途中で、自転車がパンクしたという神父が乗り込んでくる。ミサに遅れるというのだ。ところが彼は、強盗団の一人。救急車がトラックを追い抜くと、後ろのドアから武装した男たちが降りてきて、運転手と会計士を殺してしまう。

しかし一味のひとりアルベルト(アンドレア・チェッキ)は、なんとミケーレの戦友だった。ふたりはドイツ軍の捕虜収容所で知り合った仲間だったのだ。アルベルトはミケーレの新婦ジョヴァンナを人質に取り、黙っていれば明日の朝には返してやると約束して、金とともに走り去ってゆくのだが...

スピード感たっぷりの展開。みごとな娯楽作品。しかも、盗賊一味のなかには、ヤクザ者やドイツの軍人、さらには元の対ドイツ協力者で女スパイの「リリー・マルレーン」ことダニエーラ(ヴィーヴィ・ジョーイ)がいる。アルベルトの恋人であり、一味の女ボスだ。

こうして物語は、ミケーレ/ジロッティが、バッサ・パダーナ(ポー川下流域の平野)の協同組合協の農民たちと協力しながら一味を追って、連れ去られたジョヴァンナと、奪われた金を取り戻すまでを語り始めるのだけど、これがまた予想のつかない展開をするわけだ。小さな組合が、広い平原のあらゆるところにつながいる。戦争の帰還兵たちが社会にあぶれている姿が描かれる。ひろい平野のあちこちに埋められた地雷を爆発させながらの撤去シーンは迫力は満点。労働者たちを運ぶ貨物列車の上で行われる政治集会。その列車のまわりを側を持って走る農民たち...

一方で逃げる盗賊の一味のなかではドイツ語が飛び交いう。偽装した救急車は、あわや農民たちに止められる。だがそれは、地雷で負傷した仲間を運んで欲しいと頼むためだった。救急車のなかで錯乱して「戦争は嫌だ」と叫び恋人の名前を呼ぶ負傷者。彼が手を伸ばして、リリーマルレーン」ことダニエーラの髪を掴めば、その金髪はカツラで、彼女の髪は短く刈り上げられている。対ドイツ協力者/スパイへの見せしめなのだ。その姿をさらされたダニエーラは錯乱して、負傷者を救急車から放り投げてしまう。ドイツ兵は笑いながら、天井に「GOTT MIT UNS」(神は我らと共に)と記す。それはドイツ騎士団にまで遡り、ドイツ国防軍がベルトの留め金に標語として刻んだ言葉なのだ。

そんな追跡劇のなかで浮き上がるのは、収容所帰りの帰還兵アルベルトの心。帰ってきても自分の場所のない故郷で、ダニエーラと結ばれ、やむを得ず強盗をしてしまうのだが、同じ経験をした友のミケーレへの思いは断ち切れず、その妻のジョヴァンナを守ろうとする。

そしてラストシーンがすばらしい。一味が逃げ込んだのはパダーナ平野の湿地の一軒家。まわりには地雷が敷き詰められている。運河をとおって追っての農民たちがミケーレのもとに集まってくる。ミケーレは、その前にアルベルトに金と女を返す約束をさせていたのだ。ところが、元女スパイのダニエーラは小屋も地雷原も吹き飛ばしてやるのだと、起爆スイッチに手をかける。そこに銃声。アルベルトが愛する彼女を撃ったのだ。

こうしてジョヴァンナはミケーレのもとに、協同組合のお金は農民のもとに帰ってくる。そしてアルベルトは、農民たちの人民裁判の法廷に立つことになる。誰もが彼を警察に突き出せと騒ぎ立てる。あるいは殺せと。しかし、自分たちにそんな権利があるのか。戦争中に腹を減らして死にそうになりながら、帰ってきても同じ目にあったのだ。誰に彼を裁く権利があるのか。ミケーレのそんな言葉に、誰もが下を向く。

警察が逃げていた動物たちを捕まえて連れ戻してきた時、ミケーレたちはアルベルトに立ち去れという。石を投げる代わりに、大地の豊かな土をつかんで、笑いながら彼に放つ。ジョヴァンナも、農民たちも、にこやかに彼を追い立てる。地平線の向こうには、きっとお前の生きる未来があるはずだといわんばかりに。

そんなラストシーンについて、ジュゼッペ・デ・サンティスはこう語っている。「『荒野の抱擁』のラストは、農民たちが盗賊(アルベルト)を裁いて無罪とし、自分たちの仲間として迎え入れるものだが、時を経た今、私たちが経験してきたことや、これまでの政府のあり方を思えば、ユートピア的な結末だと言えるかもしれない。しかし私は、まったく同じように撮り直すだろう。作家は、自らの創造性を——たとえそれが現実から生まれようとしているとしても——ユートピアの上に築くべきだと私は考える。ユートピアは、私の考えでは、芸術家にとって良いものだ。ただしそれは、世界の発展、人間の発展、社会の発展を推し進める価値を含むユートピアでなければならない」。


英語字幕版はここ:
https://ok.ru/video/2380779883077