SANKOU

イン・ザ・ハイツのSANKOUのネタバレレビュー・内容・結末

イン・ザ・ハイツ(2021年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

歌とダンスで現実から一気に夢の世界へと人を誘う、それはミュージカルだけに出来る表現だ。
全体的には陽気な音楽に彩られた明るい印象を受ける映画だが、ここで描かれる現実はとても厳しいものだ。
ニューヨークの片隅にある移民の街ワシントンハイツ。
色々な国から様々な夢を持って人々はこの街に集まったが、厳しい現実はどこも変わらない。
主人公のウスナビは故郷のドミニカを離れて仕事を探すためにこのワシントンハイツにやって来たが、夢を諦め故郷に帰ることを決意している。
共に働くソニーは勉強も出来る将来有望な若者であるはずなのに、不法移民ということで未来を閉ざされてしまっている。
ワシントンハイツの希望の星でもあるニーナは名門大学に進学したものの、そこで差別に苦しみ密かに大学を中退することを決めていた。
デザイナーを目指すヴァネッサ、仕事と恋に燃えるベニーにも現実という壁が立ちはだかり、前へ進むことが出来ない。
彼らだけでなく街に住む人々は皆夢を持って生きているが、貧しさゆえに夢を叶えることが出来ない。
彼らに降りかかる一番の試練は大停電だろう。街は一向に復旧する気配を見せない。
しかし、どれだけ逆境に打ちのめされても彼らは何度でも立ち上がる。
皆の母でもあるアブレラが、忍耐と信仰を信念とし、この街に来てからの夢と希望と挫折と苦しみを歌うナンバーは胸に突き刺さった。
力強く、ラテンのノリの陽気な大ナンバーが作品中に何度も登場するが、それはいずれも厳しい現実に抗おうとする人々の心の乾きを表してもいる。
ナンバーの間だけ人は現実を忘れて夢の世界に生きることが出来る。
夢を追い続ける者、街を抜け出して新たな人生をスタートさせる者、そして街のために新たな夢を見つける者、ワシントンハイツで現実に抗う人々が見つけ出した答えは様々だ。
ラストシーンはこれまたミュージカルだからこそ出来る演出であり、心にグッと来るものがあった。
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