柏エシディシ

ある船頭の話の柏エシディシのレビュー・感想・評価

ある船頭の話(2019年製作の映画)
2.0
クリストファー・ドイルの撮影と、ティグラン・ハマシアンの音楽は一級品です。
……撮影と音楽は!…一級品です……

映画監督は、キャストやスタッフの才能を集めるキューレーターとしての才覚も確実に必要で、その点では本作の監督には才覚や機会に恵まれていたのは間違い無いのでしょう。
が同時に、作家として語るべき物語があり、独自の手法で語ることの出来る才能も映画監督には当然必要であり、その点に関しては大いに不満を感じざるを得ませんでした。

ある孤独な老人の素朴な生業から、失われつつある時代への郷愁や憧憬を描くプロット自体に既視感が満ちていること自体は、まぁ一旦は良しとしても、あまりにも稚拙な台詞回しや、平坦な話運びに求心力もなく、個々のエピソードも有機的に本筋に絡んでいっているようにも思えない。
象徴的なのが、ある主要人物の終盤の転心に関して。時代の変化と為人の移ろいやすさを描きたかったのだろうけれども、前ぶりや布石がそれまでほとんどないので、唐突な印象が否めず説得力がない。
シンプルな舞台設定が奏功し、演出に関しても綻びは上手く隠れていますが、ある著名映画にオマージュシーンに関しては、構図までほとんど同じで且つ作品全体のトーンからしても違和感を感じさせる雑なCGで、失笑を禁じ得ないレベル。

無名低予算ながら意欲的で面白い邦画作品も観られる様になってきた昨今。ある比較資料として、こんな作品もある、という事でしょうか。

……それでも、撮影と音楽は一級品です!
柏エシディシ

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