【第35回サンダンス映画祭 グランプリ】
『ティル』シノニエ・チュクウ監督作品。インディーズ映画の登竜門サンダンス映画祭でグランプリを受賞、英国アカデミー賞でも主演女優賞(アルフレ・ウッダード)にノミネートされた。
刑務所長が死刑を執行するべきか苦悩するという映画。U-NEXTでの視聴が今月までということで鑑賞した。題材からして重い映画かなと思って敬遠していたのだが、観てよかった。
確かに重い。のだが、刑務所長の視点で進むため、観るのが辛いというほど苦しい訳ではなかった。死刑制度というのは難しいよね。罰だとはいえ人の命を合法的に奪う訳だから。
イランの『悪は存在せず』を思い出す映画だった。そちらでも執行人の立場からの死刑が描かれていた。死刑に安易に賛成反対せずに観客に投げかけるような手法も似ているように感じた。
タイトルの「クレメンシー」は寛容、情けというような意味。刑務所長はあくまで仕事として死刑執行に関わるだけ。しかし死刑囚やその周囲の人物と関わる内に心身が不安定になっていく。
イデオロギーありきの映画ではなく、刑務所長という一人の人間をしっかり描いていくところにこの映画の優れた点がある。彼女も一人の人間であり、苦悩する普通の人間なのだ。
彼女は夫婦関係にも不安定なものを抱えている。夫を演じたウェンデル・ピアースとの掛け合いも素晴らしい。近しいからこそ素直になれない様を静かに描写していた。
ラスト、彼女がみせた表情が忘れられない。彼女は何を思うのか、そして今後どうするのか…そうした想像をさせる見事な幕引きだ。
重い題材の映画ではあるが、過度な演出は避け的確に刑務所長という人間に迫って見せた力作。静かながらも力強い演出が見事。想像していたよりずっと観やすい作品だった。日本語版ソフトも出ていないのでU-NEXTにあるうちに是非とも観てほしい一作。