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ニッポンの嘘 報道写真家 福島菊次郎90歳のSariのレビュー・感想・評価

4.0
〝問題自体が法を犯したものであれば、
報道カメラマンは法を犯してもかまわない〟日本の戦後66年、現場の最前線でシャッターを切り続けた報道写真家・福島菊次郎(1921年〜2015年)に迫るドキュメンタリー。

福島菊次郎氏が報道写真家として撮影した写真は25万枚以上に及ぶ。
カメラマンとしての福島氏の軌跡は、敗戦直後の焦土の広島に始まる。彼が一番多く撮影したのは被爆者の写真である。被爆者とその家族を10年以上にわたり撮影し一躍名を広めた彼は、以後常に反権力の視点に立ちながら、激動の時代を捉えてきた。本作では、広島、学生運動、三里塚闘争、安保、ウーマンリブ、自衛隊、公害(水俣)、祝島(原発)、3.11後の東北の被災地を訪れるまでを捉えている。

福島氏は真実を伝えるためには手段を選ばない。防衛庁を欺き、自衛隊と軍需産業内部に潜入取材して隠し撮り、その写真を発表後、暴漢に襲われ家を放火される。シャッターを切り続けた指はカメラの形に沿うように湾曲している。

写真家として第一線で活躍する中、福島氏は保守化する日本に絶望し無人島に渡る。1988年以降は癌を患いながらも、自作による約400点の写真パネルを制作し、『戦争責任展』等、問題提起する写真展を開始、700カ所以上で開催したという。

原爆スラムの存在、人権を無視したABCCの原爆被害調査(強引ともいえる被爆者遺体の収集、解剖、臓器採取)も本質的な問題は隠蔽され、被害者の声も封殺されることが多い。真実を追求することの困難さと大切さについて考えさせられた。

「この国を攻撃しながら、この国から保護を受けることは出来ない」と年金は拒否。子からの援助も断り自らの原稿料だけで生計を立てていた。愛犬との穏やかで気ままな二人暮らしの生活の様子は何処にでも居る一人の老人だが、カメラを構えた瞬間、颯爽とシャッターを切っていく様は写真家・福島菊次郎であった。

福島氏が捉えるモノクロの鮮烈な写真。特に、原爆症で妻を亡くした同じ原爆症で苦しむ男性を撮り続けた。その男性が59才で亡くなった時からずっと、彼を写真に撮り続けた自身の行為に対し悔恨の念を抱き続けた福島氏が、男性の墓を訪れて墓を抱くように倒れ込み、誤り涙するラストシーンは涙が滲んだ。
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